11-10
「あ、まだ名前言ってなかった。私、ミュルカ」
「僕はカイン」
「よろしくね、カイン……ちゃん?」
「言いやすい言葉でいいよ」
「じゃあ、お兄ちゃんって呼ぶね。お兄ちゃんはなんで船に乗ってるの?」
「実は……こうみえても冒険者なんだ」
カインは証明のために帯刀するスネアからもらった剣をみせた。
「本物の剣だ。ちょっと触っていい?」
カインが了承する前に少女は勝手に鞘を珍しそうに触り始めた。
人様に見せる程の立派なものではないが、少女が楽しんでくれるならとカインは少しだけ剣を抜いて、その光沢を見せた。改めて見ると、手にしたものなかでは一番マシなのかもしれない。
刃こぼれもあまりなく、あまり力を必要としていないものでもある。
少女があまりにも熱中するものなので、心配した母親が隣にやってきた。
「ミュルカ。あんまりお兄さんに迷惑かけちゃだめでしょ」
腰に手を当てて怒る姿にカインは故郷の母親を重ねる。
「ごめんなさいね。ほら、あんたはこっちで大人しくする」
そういって、ミュルカ座っていたのを無理やり立たされ、手を引かれながらカインとは反対方向の隅の方へと移動した。名残惜しそうにこちらを見ていたが、手を振ってやると嬉しそうに返してくれた。
少女がいなくなった所には人形が腰掛け、揺れる船内を二人で体験する。
暇を潰す道具も無く手持ち無沙汰となって天井を見つめている内に睡魔が襲いかかる。
うつらうつらとし始め、最後は人形に寄りかかると意識がとだえた。
急な激しい揺れに目が覚めた。
慌ててその場で飛び起き、周囲を見渡す。
薄暗く出入り口のドアは見えない。部屋にはいつしか明かりがついており、天井から吊るされたやすそうなランプが唯一の明かりであった。
気づけば夜だが、一体いつ頃なんだ。
人形がカインの慌てぶりに背中を叩いて落ち着かせる。
「随分と寝ちゃったみたいだね」
一先ず落ち着いて再び床に座り、あの子はどうしているかと気になって親子がいた場所を見る。
夜目はあまり得意なほうではないが、薄目で凝らして見るとその場所には布が二枚敷かれており、顔まではわからぬが身長差からして親子と思われる二人が横になっていた。
その周りにも乗客たちが同じ形で横になって休んでいる。
起きているのはカインと人形だけであった。
「みんな寝ちゃってるね。変な時間に起きちゃったなあ」
再び眠りに入ろうと考えたが、驚いた事で頭は鮮明になってしまっている。
眠気はどこかへと吹き飛び、無性に身体を動かしたい気分でもあった。
「外に行ってみようか」
部屋の淀んだ空気から解放された気持ちもあり、カインは乗客たちを起こさぬよう忍び足で廊下へとでた。
静かに扉を閉じ直し、次いで甲板へと出るとすぐ横に船員が松明を持って警備をしていた。
「おい、お前」
誰も居ないと勘違いしていたカインは心臓が飛び出そうな程驚く。
船員を大人しくさせようと自然と身体が剣を抜く動作を始めるが、寸前のところで理性が働いて握りしめていた柄を離した。
「な、なんだお前やるのか」
船員の方もカインを怖れ松明を揺らしながら言葉に動揺が見られる。
両者に緊張が流れるも先にカインが平謝りをしてみせた。
「ごめんなさい。ちょっと外の空気でもっておもって出たんです。誰も居ないと思ってたけど、まさか船員さんがいるとは思いませんでした」
カインの豹変した態度に船員が呆気にとられた。
なんだか居心地も悪くなり、外へ出るべきではなかっと感じ船内へと戻ろうとすると、乗船した時に呼び止められたあの男が道を塞いだ。
「何処へ行くってんだ。ちょっと付き合えよ」
歯並びの悪く悪そうに笑う男にカインは危険を感じた。




