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二時間もどうやって時間を潰そうかと考えるも簡単に消費できる場所を見つけることは容易であった。
未整備の海岸には観光客がまばらに歩いており、カインはその中に加わる。
港にいた時よりも潮の香りは強く、波打ち際の飛沫が離れているにも関わらず肌についたかのようにベタつく感覚に少し嫌な顔になる。
汗とは違う塩っぱさは新鮮だが、どちらも不愉快であるにもかかわらず少しばかり我慢して浅瀬を見つめる。
時折、水面から飛び出した中型の魚が姿を見せる。
無防備に身体を横たえた状態で現れるもすぐさま水中へと戻っていく。
それを虎視眈々と磯の荒々しい岩から狙う海鳥が複数おり、一羽が飛び立つとみなが一斉に獲物めがけてとんでいく。運良く取れたものは良いが、取れず仕舞いで再び舞い戻るものも複数羽おり、狩りの難しさを物語る。
魚の方も狩られる側に立つにも関わらず好奇心から飛び跳ねることをやめることはせず、それがかえって鳥を煽っているにみえてカインには面白く映った。
しばらく歩いていけば同じように見える海岸も変わり始める。
海上を四方の桟橋で囲んだ場所があり、釣り竿をもったもの好き達が糸を垂らしている。
カインは故郷で釣りはあまり好んですることはなかった。
釣れる魚の大きさなんてたかが知れており、実りの少ないことが一番の理由だった。
しかし、この海で採れる魚はどれも規格外に大きく先程の中型と思えた魚も川のものと比較すればだいぶ大きい。
人形がカインの袖を引っ張る。
「いや、やらないよ。ただ、どんなのが釣れるんだろうかって気になっただけ」
時間よりも少し早めに戻ると既に乗船を開始されており老夫婦が乗り込む姿があった。
カインも乗船すべく小袋に入れていたチケットを確認して、手渡した。
「確認しました。どうぞ、お乗りください」
チケットを返してもらい、客船と続く桟橋を半ば渡ったところで人形が後についてこないことにきづいた。
振り返ると、カイン同様にチケットの提示を求められている。
困り果ているのか微動だにせず、顔を俯いている。
「あ、ごめんなさい。この子は人間じゃないんです」
「おっしゃる意味がわかりません。船に乗るにはチケットを提示して頂けなければなりません。あなたがチケットをお持ちで?」
「いやほんとうに人間じゃないんです。ちょっと見ていてください」
カインは一度陸へと戻り、耳のない人形に耳打ちするように顔を近づけた。
「チケット代を忘れてたのは僕が悪かった。君を乗せるために一芝居するから付き合ってよ」
人形は黙ったままで身体一つも動かさないが、カインにはそれが納得してもらえたかのように感じた。
「ちょっと見ててください」
カインはそういって人形の腕を自身の肩に回し、手でそれぞれの腕を掴んでみせた。
そしてその場で適当に踊りの要領で動き始める。
その動きはぎこちなく、踊りというよりかは不自然な動きとしか周囲には映らないでいたが、人形はカインの意図を読み取る形で自らカインがまるで操っているように複雑な動きをしてみせた。
非常に通りが少ない場所ではあるが、通行人たちは足を止めて見とれている。
最後は静かに急停止してみせると、数人が賛辞として拍手をおくってくれた。
「どうです?僕の商売道具なんですよ」
「どうもそのようですね。道具に代金を払えなんていえません。どうぞ、お通りください」
カインは人形に支えられるよう身体を寄せ合ったまま船の中へと無事に乗り込んだ。




