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露天ばかりの通りに着いた時、甘い香りがどこからともなく漂い始めた。
やや不安そうにしていたカインの顔が明るくなり、頻繁に鼻で嗅ぎ続け出処を掴もうとする。
傍から見れば変人に見えてしまうが、カインにとってこれ以上にないモニカの店への手がかりであった。
しばし歩きながら匂いが強くなる場所を突き止めては移動を繰り返し、ついに見覚えのある橙色の薄い煙が見えた。
煙は角を曲がった先から漂っており、駆け足で向かうと探し続けていた変わった入り口がみえた。
店の前まで顔をほころびながら近づき、頭の中で描いていたあの黒色の怪しげな壺がかかれた看板が確かに掲げられていた。
「よし」
小さな声で喜び、下り階段を踏み外さずように降りると入り口ドアを叩いた。
しかし反応はなく、レーベと共に来た時のように開けることはできない。
留守なのだろうかと、次は強めに叩いた。
それでも反応がなく、途方にくれているとドアが数ミリ幅で開いた。
「あ、モニカさん」
空いた途端締まりそうだったドアが勢いよく開く。
そこにたっていたのは紳士服を着て、仮面舞踏会につけていくような蝶を模した仮面をつけた者であった。
驚き後退りをする。
謎の人物は何もいわずまま徐々にカインとの距離をつめていき、カインの背が壁にあたると階段を駆け上がる体勢になるも、店の奥で天井から身軽に降りてきたモニカと目があった。
「カイン君?」
「そうです。えぇと、この人はお客さんですか?」
恐る恐る正体を隠した人物に失礼のないよう目線をおくる。
「違う違う。その子は人形」
「え、人形なんですか」
随分と格好が変わってしまっている。
「流石にあの姿のままで歩いていると不審がられるからね。見た目も変えてあげないと」
「えぇ、まあそうですけども、かなりやり過ぎてますね」
カインが指をさすと人形がそれを掴む。そしてそのまま上下に力強く振られ、カインの身体がその場で上下した。相変わらずの力強さにカインもなんだか嬉しくなって笑ってしまった。
「ふふ。仲間とまた冒険できるって思って喜んでる」
「以前よりも強くなってるんですか?」
「そう。私ができる範囲だからあまり期待しないでほしいんだけど、旅の助けにはきっとなってくれるはずよ」
「ありがとうございます」
「いいの、この子を旅に連れて行ってくれるお礼。これぐらいはさせてね。それからこれ」
モニカは一度奥の部屋に戻ると、両手に小袋をのせてすぐに帰ってきた。
その場で開けてみると少量の銀貨と香りがする数種類の葉が入っていた。
「餞別よ。葉はちょっとした傷を治すぐらいなら使えるものだから、気軽に使ってね」
「すみません、何から何まで」
大事に受け取り、すぐにサックに入れた。
「長々と話すのは性じゃないから、それじゃあね。カイン君のこと、守ってあげてね」
モニカが人形の腕を数度叩くと、人形はぎこちなくうなずいた。




