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11-3

 頭の中に断片的に残る記憶を頼りに似たような風景を探すと案の定、彷徨う羽目になった。

 この街には似たような建物と道の作りがほとんど同じなので無理もないかもしれない。

 一度でも街の全体図をどこかで手に入れれば良かったと悔やむ。

 確実にわかっている事といえば人混みの多い場所から狭い通路となった付近にある事と目印となる怪しげな壺が書かれた看板である。

 その狭い通路にようやく辿り着くことが出来たが、ここから先が分からない。

 何しろ初めて訪れた時とは道順が違うために今自分が見ている地点からどの方角に進むべきか頭を悩ませる。

「カイン?」

 誰かとすれ違い様に声をかけられるもすぐ様に反応ができず、少し間を置いてふりかえる。

 しかし人の流れの多さに誰が声をかけてくれたのかわからず、辺りを心配そうに伺っていると急に手首を掴まれ、そのまま建物の壁沿いに引っ張られた。

「私よ」

 顔が見えぬ深いローブ姿に胸が高鳴るが現れた顔はスネアの娘のセレンであった。

 2度ぐらいしか顔を合わせていないので最初誰だかわからなかったが、親子共に特徴的な太い眉が目に留まり、次第にスネアと重なり始めそこでようやく分かった。

 セレンの格好は出会った頃とは随分と質素なものに変わっていた。

 ボドガのテティス商会は今や解体され、もちろん娘のセレンにも関わることであったと納得できた。

「何をしているの?」

 化粧をしなければ男と見まごう恰幅の良さで顔を迫られ、少し気圧されてしまう。

「店を探してます。セレンさんは何を?」

「私はこれからどうしようか考えてた所。父さんの支部は無くなっちゃって、服も全て質に入れられたわ」

「災難でしたね」

「ええ、全く。けどおかしいわ。残っていた従業員達は町の外の馬車で本部へ向かうって聞いてたんだけど、あなたは行かなくていいの?今日の夕方には出発するって聞いてるわよ」

 カインはセレンの言葉に目線を逸した。

 何も言いたくない雰囲気を出そうとして変な顔をしてしまう。

「まぁ、まだ時間があるから大丈夫ってことかしら。それと、バルサックを見たかしら?」

 スネアの言っていた件を思い出す。

 セレンの態度を見ればバルサックについて何も知らされていない様子で純粋な気持ちでカインに聞いているように映る。余計な事を言う必要はないと判断し、とぼけたフリを決め込む事にした。

「いえ、見てませんね。街の外で幌馬車の護衛でもしてるんじゃないですか?」

「それはおかしいわ。だって、私が幌馬車を移動させた責任者ですもの。その中にバルサックはいなかったし、そもそも護衛は一人もいなかった」

「だったら、本部に戻る前に武器屋とか防具屋にいって準備をしているかもしれませんよ」

「確かに。それなら納得いくわ。実は私もそれを考えてこの通りに来たのよ。でも、どうも間違えてるみたい。ここは人通りが多いけど、露天ばかりで店って感じの建物は殆どないわ」

 カインの言葉に納得いったようで、周りを見ながら一人うなずいている。

「少し奥まで来ちゃったみたいね。少し戻ってあなたが言ってた類の店を探してみるわ」

「はい、その方がいいですよ」

「では、また後ほど」

 セレンはそれだけ言い残して再び雑踏の中に姿を消した。

 あの子もそして親とも二度と会うことはないだろう。

 カインも再び人混みに混じり、再びモニカの店を探し始めた。

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