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10-13

 涙を出し切ったリッツは顔を何度か叩いた後、忘れ物があるといって支部へと戻った。

 時間がかかると思われたいがすぐに戻ると、肩にはカインの持つサックよりも二倍ぐらいの大きさのものを背負っていた。収まりきらなかった一部のものが顔を覗かせ、それらは実践向きではない装飾等に充てられる武具達であった。

「そんなもの持ってましたっけ?」

 カインの不思議そうな顔に悪い笑顔で返す。

「退職金代わりだ。それからもう敬語じゃなくていいぞ」

「え?」

「スネアさんに辞めるって言ってきた」

「辞めるって言ったんですか」

「ああ。色々とお前に吐き出したらラクになった。そんで勢いに任せてみた」

「スネアさんは何と言ってましたか?」

 恐る恐る聞いた。

「分かった。名簿等の処理はこちらでやっておくから大丈夫だってさ。思ったとおりだった」

「……」

「カイン。俺は別に憎いとか恨んだりとかは無い。今いった通り心がラクになったんだ」

 リッツは笑いながらカインの背中を何度も叩いた。

 もう慣れたが、普段通りの痛さがなによりの証なのかもしれない。

「お前はどうするんだ?」

 急に笑い止め、真摯な表情となる。

 強くささるような目線が微動するごとについてくるようで萎縮してしまう。

「俺は俺の答えを出した。今度はお前だ、カイン」

 

 再びスネアの部屋の前にやってきた。

 入り口からここまで誰一人として会わず、もはや残っているのはスネアだけなのかもしれない。

「スネアさん」

 ドアを叩きながら言うが返事がない。

 しかしカインは勝手に扉を開けると、そこにはうたた寝を始めていたスネアがいた。

 扉を閉めると、その音で目が覚めたのか腕で眼を擦りながら書類の処理を再開する。

「スネアさん」

 こちらに一向に気づかないので近づいて話をかけると、一瞥むけた。

「おお、カイン。あとはワシとお前だけのようだ。もう少し待ってくれこれが終わったら、街の外で待機してある1号馬車にのって本部へ向かうからな」

 そうはいうが、先程から書類の山はほとんど減っておらず、今日中には明らかな無理な量であった。

「話があります」

「それは馬車の中で聞こう。なんだったら先に言って待っててくれてもいい」

 カインにはさほど興味を示さず、己のやるべきことを取り組むスネアにこれから告げる事は酷なことだと思う反面、ここぐらいしか切り出せない事柄であると認識した。

「僕、テティス商会を辞めます」

 それまで殴りかくように乱暴に暴れていたスネアのペンが急停止した。

 しばし沈黙が流れ、ペンが震え始めるもまたすぐに動き始めた。

「それだけ言いに来ました」

 カインが部屋を出ようとしたが、スネアは止める事はしなかった。

 ただ、部屋の外まで聞こえてくるペンの音は来る時よりも強い音となっていた。

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