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本部に着いたら、と言われた以降は何も頭に入ってこなかった。
ギルドに所属した当初からあまりお金の事は深く考えておらず、冒険者となって暮らせればいいと安直な思いしかなかったカインだが、経験を積む事でお金に対して少し執着が生まれていた。
見返りがどうしても必要だと、以前ならそんなことは頭に浮かぶ事すらなかった。
人がめっきり減った食堂で夕飯を食べながら偶然にも隣に座ったリッツにその事を話す。
「俺も言われた。けど、今更別の仕事っていってもどこも雇ってくれねぇ。俺にとってはここが家みたいなもんだ」
「でも……無給で働くのって辛くないですか」
カインが手をとめて注がれた具の少ないスープを見つめながら言う。
大赤字というのは本当なのだろう。ある程度おかわりが許されていたこの場所も今や通常の半分の大きさのパンしか出してもらえず、スープは味気なくなっている。
経費を抑えるための皺寄せは着実なものとなっていた。
「そりゃあ辛いさ。酒も飲めない、ギャンブルもできないでやることなんてない。けどよ、家がなくなるよりかは我慢できる。野宿せず、飯もきっちり……、まあ食えるだけマシってことだ」
「リッツさん。僕が変なんでしょうか。ボロボロだった僕を拾ってくださって、剣まで頂いて。ここにいれば毎日ふかふかのベッドで眠れて、食事も出してもらえて。なのに、なのに今はこの場所に留まる気持ちがないんです」
カインの訴えにリッツは顔を見つめた。
「お前の言いたいことはわかる。それはお前が仕事に対して責任が生まれたってことだ。プロは仕事をして金をもらう。どんな職業であっても、だ。まあ中には金銭を要求しない変わり者もいるが」
「僕ってプロなんですかね」
「ああ、今のお前はそうだろう。今までそんな気持ちなかったんだろ?」
「はい。毎日元気に過ごせれば良いとぐらいしか考えなかったです。でも今はお金が欲しいです」
「そうだよなぁ。俺も最初は強がってたけど、本当は金が欲しい。畜生、ザラタンのやつ」
酔いなど回ってもいないのにリッツは水が入ったコップをテーブルに叩きつけた。
その音に反応する者はおらず、雇われ護衛の二人は暫く愚痴を言い合った。




