10-7
再び目を起こすとギルドのホールであった。
相変わらず冒険者の姿はほとんどなくクエスト掲示板に紙一つとして貼られていない。
カインは痛む身体を我慢して身体を起こし、受付の方へと向かうとレーベの姿はなく、ザラタン戦の際に参加していたギルド職員と目があい、軽く会釈をした。
カインがそのままギルドから立ち去ろうとすると、ギルド職員が呼び止める。
「レーベさんから伝言です。明日は野外での鍛錬になるそうですので、いつもより早めに来てください」
野外の鍛錬。どういう意味なのかさっぱり分からずともなんだか嫌な予感はしていた。
午後はルドガの町を散策することにした。
まだ行ったことのない街の内壁へ行ってみたいが、境には領主の兵が立っている。
近づけば直立不動のまま目線だけこちらに向け、その場から離れるまで片時も視線を外さない。
中に入ってみたい気持ちを残したまま、カインが立ち去ろうとすると、誰かが声をかけた。
「おや、貴殿はテティス商会の護衛ではないか?」
検問所に設けられた小さな詰め所からあの青年将校が立っていた。
「こんにちわ」
「なぜここへ?領主様に招待でもされているのか?」
「あ、いえ。そんなことはないです。ただ、ちょっと中に入ってみたくて」
青年将校は決して威圧しているわけではないが、近寄りがたい雰囲気を持つ。
見えない圧迫感があり、ギルド長とはまた違ったものであった。
「ルドガの内壁に興味がおありか。生憎、招かざるものを中へ入れるほど領主様はお人好しではない」
カインは申し訳無さそうに頷いて再び背を向けた。
「だが、街を救った英雄ならば話は違ってくる。機転を利かせてザラタンを討った姿、私はしかと見た」
周りの兵士たちが青年将校の話に耳を傾け、カインを見ながら驚いた表情をした。
「私から申してみよう。しばし待たれよ」
思わぬ幸運の巡り合わせに俯いていた顔が花ひらく。
青年将校は待機している馬に跨ると検問所を通って奥の方へと姿を消していった。
ルドガに来た際、内壁は螺旋状の作りをしていたことを思い出す。
三環状のそびえる防壁が今も脳裏に焼き付いており、終点には四方が円塔状の小さな城が見えていた。
門番の邪魔にならぬよう少し離れて待つこと十数分、蹄が軽快に路面を叩く音が聞こえてきた。
「待たせた。申し訳ない、領主は英雄には興味がないようだ。入場は諦めてもらうしか他ない」
持ち上げられて一気に落とされた気分となったカインは気力なく帰ろうとしたが、青年将校に腕を掴まれた。




