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仲間のザラタンがやられたことで残った方も流石に分が悪いと感じたのか、切り落とされた脚を残したまま後ろに後退を始めた。
勝機だと感じた兵士たちが追い打ちもかけるも力はまだ健在で飛びかかった兵士たちを薙ぎ払う。
泡を激しくたてながら恨めしそうにした後、消え去るように懐中へと姿を消し、水面から分かるその巨大な図体がルドガから遠ざかっていった。
危機は去り、それと同時に歓喜があがった。
カインもつられて声をあげるが、無数の死体が転がる港を目にした途端にその喜びもすぐに消えてしまう。
モンスター2匹に少なくとも二十数名は殺された。
地面は赤く染まり、あちこちでちぎれた四肢や細かな肉片が散らばっている。
無表情のままザラタンが逃げた海の先を見つめる。
あれが全てではないのだろう。ああいうのがもっとたくさんいるのだろう。
全部が攻めてきたら自分もきっと死んでいた。
「カイン。スネアが話があるってよ」
リッツに小突かれ、顔をあげる。
「みんなよく最後まで戦ってくれた。テティス商会の誇りだ」
古ぼけた木箱に立ったスネアが護衛達に労いの言葉をおくる。
「特にバルサック。強大な敵に怯みもせずに先陣を一人で切り、相手を窮地へと追い込んだ。さすがは護衛隊長だ」
バルサックの周りに冒険者や共によくつるむ連中が集まり、囃し立てる。
表情一つ変えず、通常運転といった具合に少し下に下がった口元があがることはない。
「そして、カイン。機転を利かせた一撃で見事ザラタンを討伐した」
リッツが大げさに拍手をする。バルサックの時とは対照的に他のものの反応はまちまちで拍手もリッツ含めて四人程度がおくってくれた。
それでも自分が成したことを人に讃えられることは心が震えるほど嬉しい。
はにかんだ表情を見られるよう下を向き、口角を思い切り上げて喜んだ。
「無事、クエスト達成だ。皆よく働いてくれた。まずはお礼を言わせてくれ」
港の処理は兵士たちが自主的に始めたのでギルド職員、冒険者、テティス商会のメンバーは会議室に戻ってきた。
報せを聞いた一部の町の人々がお礼にと様々な料理を次から次へとギルドへと運び込まれる。
やがては用意していたテーブルに載せられなくなり、ついにはギルドの入り口を強制的に閉めたが、外からは感謝の言葉ひっきりなしに投げられている。
それをカーテンの先から確認したギルド長が再びみなの前でお辞儀をする。
「ご覧の通り、君らは町の英雄だ。今日の事は長く伝えられるだろう」
「少し大げさだろう。ドラゴンを倒したわけでもあるまいし」
スネアが意地悪そうにやじを飛ばした。
「決して誇張ではないぞ。港を敵から守った。それだけで十分に値する」
カインはその言葉に頷いた。
被害は出た。それは仕方がない事だと割り切る。
あそこで自分たちが勇気を振るわなければやがては町の人が襲われていた。
それを阻止することができた、今日のことは誇りに思う。
「私はあまり長話は得意ではないのでこのあたりにして、料理をいただこう」
ギルド長が話をやめると、待ってましたとばかりにカインは目の前の料理にがっつきはじめた。
とっくに夜になっているし、昼は食べていないしで腹が我慢の限界であった。




