9-16
倒れたザラタンであったがバルサックを執拗に攻め続ける。
残った目柱はカインが近づいてくることさえ気づかず、目の前の敵にしか向けられない。
カインはゆっくりと遠回りでザラタンに近づいた。
巨大な亀の甲羅で浮いた影に身体を忍ばせた。
甲羅と身体の間には僅かな隙間が出来ており、ヤドカリになっているのだろうかと想像できる。
カインは辿り着く前に拾っておいた港に散らばっていた火薬を服の中から取り出し、次々とその隙間に入れていき、最後にマッチ棒に火をつけて投げ込む。
逃げ出すように両手を振ってその場から離れようとすると、ザラタンの目がついにカインを捉えた。
しかし、鋏を動かせる範囲から逃げているカインを襲うことはできず、無様にばたつかせていると大きな爆発音が港に響いた。
戦っている者全員が一瞬そちらに気をとられる。
バルサックでさえ驚き、距離をとった。
ザラタンは一瞬激しく脚で踏ん張り痙攣してみせた後、力なく四肢をだらけさせた。
脚は伸び切り、鋏は地面に落としたまま持ち上がる気配はない。
動き続けていた目柱から生気がなくなり、絶命した。
「一匹やったぞ!」
スネアが大はしゃぎで戦う兵士たちにわざと聞こえるように叫んだ。
それを見た兵士たちも勇気づけられたのか攻撃をよりいっそう激しいものへと変える。
「お前はやるやつだと思ってた」
リッツが小躍りしながら讃えてくれる。
冒険者たちもカインの周りに集まり、それぞれ賛辞を述べた。
「僕一人じゃとても……。バルサックさんが足止めしてくれたから」
カインはそういいながらも満更ではない表情で照れ隠しをした。
そしてバルサックが歩いて戻ってくるとカインは駆け寄った。
「ありがとうございます。バルサックさんのおかげです」
カインの言葉にそっぽを向いたままであったが、少し鼻で笑った声が聞こえたのは気の所為ではないと信じたかった。




