9-12
地面に転がる兵士たちを踏まないようリッツ達の元へと近づく。
四肢の一部を切られた者のうめき声や既に絶命しているものが点在し、地獄の様相を呈している。
誰かの手がカインの足首を掴む。
驚いて下を向くと右手を失った兵士が嗚咽めいた言葉で助けを求めてきた。
瞳に精気はなく、動作も非常に鈍感でもう長くはもたないことは分かる。
「構うな、カイン」
スネアの短い言葉にカインはここが戦場であることを再認識をする。
無慈悲だと思いながら足を蹴って手を払い除け、逃げるようにまだ先に転ぶ者たちを意識しないようにして走り抜けた。
そうしてようやくリッツ達の元へとたどり着いた時、カインの後には靴裏のスタンプが軌跡を辿るように地面に刻まれていた。
「遅いぞ、カイン」
弓を構えいてたリッツが息のあがるカインを迎えた。
リッツ達と対峙するザラタンは兵士たちが戦っているものよりも大きく、黄土色かと思われた体色は赤みがかかった茶色に近い色合いであった。両方の鋏のうち右のものは左と比べると倍以上はあり、その大きさは小舟ぐらいに相当する。刃線の上には先頭が丸みを帯びた小さな筍のようなものが大小様々なものが並んでいる。
あれに挟まれたら抜け出せない。カインは乳白色のそれを見て唾をのみこんだ。
ザラタンは口元に泡を溜め込みながら突き出た細長い柱のような目で周囲を執拗に観察している。
そうして自身にとって容易いと思う相手を見つけると、口元を隠すようにしている腕をあげて、閉じた鋏を鉄槌の如く地面へと振り降ろした。
激しい揺れと、打たれた場所を中心として地割れが生じ、カイン達は足元をふらつかせる。
決して近づくことはできない。あれをくらえば命はないだろう。
それに辿り着く前に鋏で挟まれ、千切られてしまう。
「どうやって倒すんだ、あんなもの」
護衛の一人が喚いた。
誰しもが倒せない、無理だと考えていた。
日常からモンスター相手に商売をする冒険者たちでさえ、立ち尽くして戦意を失ってしまい、無意識に後ろへと足摺りをさせながら後退している。
「動きを良く見ろ」
バルサックただ一人、目線をザラタンから外さずにいた。
その言葉にカインも真似をする。動きを見るといっても、先程から蟹らしい動きを……。
「横にしか動けない?」
カインの言葉にバルサックは静かに頷いた。




