9-11
角を曲がろうとした矢先であった。
今まさに曲がろうとしたカインの目の前を一人の兵士が宙に浮かび、後ろへと引っ張られる態勢で飛ばされてきた。それは石切りのように路面を何度か擦りながら進み、小さく積まれたレンガ造りの石垣に音を立ててぶつかると、ようやくそこで止まった。
兵士は力なくうつ伏せで倒れ、身体を一瞬震わせると口から血を吐いた。
カインはその姿に足がすくんでしまった。
追いついてきたスネアが立ち尽くすカインの視線をたどると、同様にその場で凍りつく。
数センチ先の角で起こっていることは斃れる兵士を見ればすぐに察しがつく。
いかなければならない、リッツやバルサック。レーベやギルド長が戦っているのだ。
「カイン、いくぞ」
先に正気を取り戻したスネアがカインの脇腹を小突いた。
我にかえり、血をはいたままの兵士を忘れるよう頭に念じてから角を曲がった。
角を曲がると港まで続く短い一直線の坂があり、大勢の武器を持った者たちが押しかけていた。
鯨が水揚げされたときよりも人がいるのではないかというぐらい、過密状態である。
しかしそれ以上にカインを驚かせたのは砂浜であったであろう場所に現れたザラタンであった。
カインの知る蟹とは似ても似つかない巨大な姿で両手の鋏からは人の血だろうか赤い液で体色である黄土色が見えないほどに染まっている。上陸した数は2匹のようで、防具が揃った領主の私兵達だろうか、槍や弓を用いて陣形を組んで対抗をしている。
「そこ、深く入りすぎているぞ!」
カインから少し離れた場所で用意された木の台座の上に、支部の外であった青年将校がたっていた。
指揮官なのだろう、左右に腕利きの兵士を携え自らは安全な場所で部下の兵士たちに指示をおくる。
リッツ達はどこだ。武器を持った群衆の中に目線を彷徨わせると、右手のほうに他のテティス商会の面々と行動している姿をみつけた。
「スネアさん、あそこ」
カインの指先をたどり、スネアも無事みつけることができた。
この人混みの中で前へと向かうのは至難らしく、構えた武器を振る機会には恵まれていない。
兵士がやられてもすぐ近場の者が補う形で陣形を維持しながら戦う以上、部外者の冒険者やギルド、テティス商会が付け入る隙はない。
兵士たちの実力がどの程度のものか分からないが、善戦していることはなくそれを数で補う形となっている。
無駄に命を散らしているだけ、カインの目にはそう映った。




