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ギルドに入るとすぐにレーベの姿があった。
変わり無く受付をしており、手元の書類に目を通して何度か頷いている。
カイン達の足音がして顔をあげると、ホールの奥で座って他のギルド職員としばし熟考するギルド長を呼んだ。
「来たか」
スネアがまず握手をし、軽く抱き合った。
「まずは、ありがとう。お前なら来てくれると思った」
「いや、ワシはなにもしとらん。こいつらがお前の力になりたいと駄々を言ってな。特にカインはすごかった」
明様な嘘にカインは少し笑い、場が僅かに和む。
「場所を二階に変えよう」
ギルド長はそういい、ホールの左端に設置された細い螺旋階段をゆびさした。
二階の会議室は大きく、数十人入っても一杯にならないほど余裕があった。
ギルド職員数名とテティス商会の面々、そしてカインが初めて訪れた際に一度目があった冒険者達のパーティーが1組。
外で出会った青年将校は領主の私兵か分からぬがそういった者たちを除けば、戦える者たちはこれだけであった。
「それで、だが。海中からこちらへ近づいてくる正体について、まずは話そうと思う」
「わかったのか?」
「うむ。やはりというべきか、鯨を追ってきたようだ」
鯨。あの浜辺の巨大な動物を追ってきたとはどういう意味だろうか。
「鯨を追ってきた?やつらも漁をするのか?」
「いや、やつらは鯨は食べぬ。ただ、鯨という存在が彼らを怒らせたのだ」
「さっぱり分からん」
「鯨が稀にしか取れぬのは知っているだろう」
「ああ」
リッツが言っていた前に見たのは1年前だと。
「それには理由がある。鯨はやつらにとって同じ海に棲まう同胞なのだ」
「同胞?ああ、じれったい。やつらとは誰の事か早く教えろ」
スネアが自身の膝を叩いて苛立ちを訴えた。
周りの者たちも頷いてスネアに同意を示した。
「やつら、つまりは魚人達の眷属の一つとして知られるザラタンと呼ばれる」
「ザラタン……」
バルサックが一人つぶやく。
カインには全く想像つかない名前だが、一体どんな姿をしているのだろうか。




