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騒がしくなる中でカインだけはすでに答えは決まっていた。
これはクエストで自分は本来、冒険者である。根っこの部分は決して変わらない。
護衛の一部は主人の要求を突っぱねるように部屋を後にし始める。
一人が始めれば周りも同調してその数は増やしていき、大勢いたはずの部屋にはカインを除いて数人が点在している状況に変わった。
その中にはリッツもおり、なぜかバルサックもいた。
「所詮、雇われの兵というわけか」
バルサックが小さな声で呟いた。
スネアは残った者を率いてギルドへ向かった。
支部を出ると通りの前で荒々しい声にまじり、悲鳴が時折あがる。
街中全体が混乱状態の最中において、統率のとれない住民を制御するのは至難の業であるが故、街の内壁に駐在する兵隊や警護の者らが総出で鎮圧しようと精を出していた。
「どこへいく」
若い青年将校が一人、今や数人たらずのテティス商会の護衛達に声をかけた。
スネアが足を止め、一礼した。
「ギルドへ向かうところだ。道をあけてもらおう」
「ギルドだと?貴殿もしやそれは、偽言ではあるまいな」
「どういう意味だ?」
「混乱に乗じて一部のならず者たちが町の不法占拠を始めたという噂が流れてきている」
「まさか」
「事実である。故に、貴殿の名前を問いたい。そして後ろに率いる兵たちとどういった関係か」
スネアは手短く伝える。
それでも青年将校は信用ならないという素振りで怪訝な顔つきとなって周りに散開する自分の部下を呼びよせると、得物を構えさせて半包囲でカイン達と対峙した。
不本意ながらカイン達も得物を構えた。
「よせ、収めろ」
スネアがバルサックに怒鳴った。
しかし顔つき一つも変えず、正面で指揮棒を持つ青年将校の瞳を捉えたままである。
不穏な空気は続く中で街の喧騒は止むことを知らない。
近づきつつある未確認の化け物とそれによって生まれた混乱に町は包まれ、秩序や良心は崩れおちそうになっている。
カインは柄を握りしめ、どうか相手がひいてくれることを願った。




