表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/162

9-6

 隣のリッツも固唾を飲んで見守る。

 力強いバルサックの引きに為す術がなく引きずられる形で足を躓かせそうになるセレナ。

 大声で助けでも呼ばれたら少々厄介であるが、セレナは何も言わず腕を引かれるがままに大人しくついていく。

 相手方の一方的なやり方に口出しをしないのは不自然であるが、あのバルサックの態度にスネアは何と言うのだろうか、とカインはおそるおそるゆっくりとなって見た。

 しかし、意外なことにセレナは抵抗することはなかった。

 二人はすんなりと人混みの中へと消え、もう見えなくなった。

「なるほど。バルサックか」

 スネアは怪訝な顔で頷いた。


 カインはリッツと共に支部へと駆け足で戻った。

 従業員、護衛の者たちが慌ただしく行き交いながら、各々ができる仕事を取り掛かる。

 待機してあった幌馬車を支部の前の通りに待機させ、いざという時のために商品、備品をこれでもかと積み込む。

 その周囲には火事場泥棒に備えて護衛が数人立ち、目をひからせる。

 カインは割り当てられていた部屋に戻り、私物を適当な袋に詰め込んだ。

 それが終わると部屋をあとにし、召使いと出くわした。

「旦那様がおよびです。ご案内します」

 長いスカートをつまみ上げ、小走りとなってカインを誘導する。

 遅れまいと袋を肩に下げ、追い抜く気持ちで走った。

 廊下で数人とぶつかりそうになりながらも躱しながら進み、突き当りの大きな扉の前までやってきた。

「カインです」

 扉を叩く。自ら開き始めたかと思うと、スネアが開けてくれていた。

「入りなさい」

 手招きして中へと入ると、大勢の護衛達の視線がカインに集中した。

 目つきの悪い者ばかりで人相だけではごろつきではないかという者が多い。

 その中には当然バルサックもおり、相手がカインだと分かるとすぐにスネアの方へと向き直った。

「みな知っての通り、この街に危機が迫っておる」

 みなが固唾を飲んだ。

「テティス商会のあくまで支部であるが、この街の領主には今まで非常にお世話になってきた。そこでワシとしては出来る限りのことはしたいと考えておる」

「どうなさるのですか」

 バルサックが緊張を解く一言を放った。

 スネアはしばし黙り俯いた。様々な思惑が渦巻いているのだろう。

 そうしてゆっくりと顔をあげる。

「ギルドの要請で少しでも手が欲しいという。ワシらテティス商会はその要請に応えようと思う」

 ざわつきが増した。

 自分たちはあくまで商会が雇う私兵や傭兵の類であって、冒険者ではない。

 要請に従う強制力はなく、この街に恩義を感じているものはスネア以外あまりいないだろう。

 金によって結ばれた関係を当然としていた者たちにとって、スネアの発言は納得のいくものではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ