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セレナは顔を背け、腕組みをしてみせる。
苛立ちをさらに表す様に指で二の腕を素早く叩く姿にスネアは呆れて物が言えない状況となった。
親子喧嘩を見せられカインはどうしたらいいのか戸惑ってしまう。
無理やり手を引いてでも連れて行くべきか、しかしスネアがそれを許すのか。
「お嬢さん。俺らと逃げるのは嫌ですか?」
リッツがここぞとばかりに気取った雰囲気を纏いながら、話かけるが無言を貫かれる。
しびれを切らしたスネアが手首を掴もうとしたとき、辺りがざわつき始めた。
商人たちが隣同士の者と話し合いを始め、すぐさま船員や町民達へと伝播する。
話を聞いた者はこぞって水平線に目をやり、誰しもが不安をつのらせた表情に変わる。
一部はすでに慌ただしく港を離れ始めた。
「情報が伝わるのが早すぎます」
召使いが困惑した表情で呆れた物言いをはなった。
それでもまだ街は恐怖に支配はされておらず、戸惑いを残しつつまだ平穏な状態を保てている。
「急ぎましょうセレナさん。ここも時期、大慌てになる。そうなったら僕たちだけじゃ逃げ遅れてしまう」
「あんた。私の名前を気安く呼ばないで」
向けられた顔はカインを見下しにらみつけるようなものであった。
様々な人から向けられてきた馴染みのある仕草にカインの恐怖心は既になくなっており、平然とした態度で受け止めた。睨みを効かせたままのセレンであったが、一向に怯まないカインを面白くないのか舌打ちをして再び、そっぽへと向けた。
「何だ今のは!」
黙っていたスネアが怒鳴り声をあげ、周りにいた町民たちが驚いた。
カインのために怒ってくれているわけではないが、年頃の少女がする態度ではないのは分かる。
面倒くさい相手だな、と感染ったかのようなため息を漏らすと、背後に誰かが近づいてきた。
圧迫感を受け、横へと即座に流れると相手はバルサックであった。
やや不機嫌そうな顔で現れるやいなや、セレナの腕を鷲掴みした。
「途中から会話を聞いておりました。危険が迫っております故、ご容赦を」
そう言うと、強引に砂浜を歩く始めた。
バルサックとセレナ。どちらかというと堅物同士の二人が次に何が起こるのか、カインは怖くなって半目になった。




