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9-3

 カインが見た魚は屋台のものとは似て非なるものであった。

 もちろん大きさからして明らかに違うのだが、まず鱗がない。

 体皮を覆うあの硬い小さな扇のようなものが何処にも見当たらず、少々困惑してしまう。

 体色は上と下で別れており、身体の中心から上は黒、下は白。ただし、白に細長い黒い線が等間隔で流れており、模様となっている。

 背ビレに該当する部分も肉厚で針の様に尖ったものではなく、角が柔らかそうな三角の形をしたもので少し疲れて垂れ下がった形をしている。

「もう少しで頭だ」

 誰かが叫ぶと、綱を引く速度があがった。

 早る気持ちが誰しも有り、カインも全貌満たさに自然と力が更に入ると、突然後ろに転がりそうになった。

 しかしリッツが寸前で受け止めてくれたため、顔を砂に埋めずに済んだ。

「力の入れすぎだ」

「助かりました」

「ああ。だが、見てみろ。俺たちが見たかったものだ」

 リッツは顎でその正体を合図した。

 魚というよりかは、動物といったほうが正しい気がする。

 大型のドラゴンにも匹敵するような長さで、しかし海にこのような物が住んでいるのか。

 神話に登場するケイラケンのような超大型のものが現実に存在する事実にカインは言葉を失った。

 

 砂浜に完全に引き上げられた動物を船員たちが解体し始めた。

 刃から柄までが大人4人分はあるだろうか、解体用に造られた大きな薙刀を二人がかりで持つと首の付け根部分に助走をつけて、勢いよく深く刺し込んだ。それを今度は二人程新たに船員が加わり、尾びれへとかけて真っすぐと背中を、ちょうど真半分になるようゆっくりと斬り進んでいく。

 時折、斬られた背中より血飛沫が吹き出し、寄せる波を赤く染めていく。

 みなが固唾を飲んで見守る中、カインは見えてきた肉を奇妙な目でみた。

「あの肉、もしかして食べるんですか?」

「そりゃそうだろ」

「えっ?でもあれってモンスターですよね。確かに食べる人はいますけど、好んで食べる人っていますか」

 カインは疑問視した。

「モンスター?いや、あれはモンスターじゃない」

「モンスターじゃないんですか!」

「そうだ。そうか、お前は知らないんだっけか。あれはクジラっていうんだ」

「クジラ」

 聞いたこともない名前であった。

「捕る事が非常に難しい生き物なんだ。俺も最後に見たのは1年くらい前でな。今朝、捕鯨船が帰ってくるって報せが伝えられて、朝から大騒ぎだったぜ」

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