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船員たちは誇らしげに群衆を前に手をあげて、その歓声を受け止めていた。
白い半袖を更に脇まで巻いて上げ、青い短パンで長い航海だったのか脛にはたくさんの毛を生やしている。
無精髭のものも少なく、一歩間違えれば海賊かと見紛う。
最後に降りてきた船員には特段の声があがった。
服装は他の者とは違い、シワの無い長袖を着てズボンも長く、決してラフなものではない。
髭も鼻の下で波のような形で両端を揃えて整えてあり、髪はおかっぱ頭で切り揃えてある。
「ガルニカ船長、万歳!」
カインの横で中年男性が手を叩いて喜んだ。
それに呼応してあちこちで船長を称える声があがる。
言われた当の本人も満更でもない表情で手を上げて、それに応えた。
カインは再びリッツの元へと移動した。
「リッツさん。あの人がガルニカ船長って人なんですね」
「ああ、そうだ。この街であの人を知らない人はいないくらいだ。お前も覚えとけ、いづれ一緒に仕事をするかもしれない」
「テティス商会は大型船にも乗るんですか?」
「いいや、違う。あの大型船が運んできたものをうちで取り扱うのさ。ただ、そいつはその辺で扱えるものじゃない。船尾を見てみろ。船員達が陸へとあげはじめるぞ」
リッツが指差す先に船尾に吊るされていた巨大な魚の尾が見えた。
尾には縄が抜けないように何重にも輪をくぐらせ、綱引きの要領で桟橋のすぐ横にある小さな砂浜に船員達が引き上げようとしていた。
綱は随分と長く、彼らが全員加わったとしても余裕がある。
そこで力自慢の男たちが我先にと加わり始めた。
「俺たちも加わるぞ」
「えっなんでですか?」
「それがこの街の伝統ってやつだ」
「伝統……?」
カインは理解できぬままリッツの言った通り綱を握りしめた。
前のほうで握る男たちにはテティス商会で見かけた護衛達の姿がちらほら見受けられる。
ガルニカと呼ばれた船長が小岩の上に立ち、引っ張る音頭をとり男たちは声をあげて引き上げ始めた。
カインもつられるがままに声を出して、力の限り引き始める。
砂浜に足を取られ、思うように力を出せないでいたが、他のものも似たような状況にあった。
バランスを崩して途中で転げてしまうものや力の入れ方が明様に間違っている者など入り乱れての引き上げ作業となった。
それでも少しずつ街の方へと向かっている実感がもてる。
男たちもそれを感じているのだろう、引く距離も増え始めた。




