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ギルドを出ると、港のほうがなにやら賑わっていた。
子供たちがカインの膝にぶつかって走り抜けていき、親たちが心配そうに後をついていく。
隣の仕立て屋の主人が扉をあけ、隙間から顔を覗かせ、なにかを期待する眼差しを向けていた。
何があるのだろうか、とカインもつられて港へと足を運ぶ。
誰しも家路に向かうものはおらず、決まって一方通行に港へと進むので不思議な気持ちが湧いた。
やがてリッツの奢りで食べた屋台がある広場へと出た。
そこでは人がごった返しており、カインは隙間に挟まれて身動きがとれなくなるのを怖れ、広場へと続く坂道近くに出来た盛り土の上に乗った。
手で額に庇を作り、目を凝らす。
人々がとある場所を境に囲むようにして少しばかりの余地を作り、何かを待つ様子がみてとれた。
そして突然の歓声があがった。
一つの生物の鳴き声かのように港全体を包み込むほどの大声に興奮して胸を高ぶらせた。
何が起こったというのか。
人々ではなく、大型船の船尾部分にくくりつけて何かが目にとまった。
ここからでは鮮明には分からないが、人々をここまで駆り立てるものとは一体いかほどなのだろうか。
カインはついには盛り土から降り、人の波へと加わった。
気になってしまった以上確かめなければ納得いかない性分の表れてしまった。
「カイン!こっちだ!」
聞き覚えのある声のする方角に、大手を振りながら人波に押され押しつつのリッツがいた。
かき分けながら、まるで泳ぎでもしているかのようにリッツと合流する。
「一体なにがおきてるんですか」
割れんばかりの歓声に負けまいとリッツの耳元に怒鳴るように聞いた。
「あれがとれたんだ」
目を見開いて喜んだ表情で人混みの前へと勝手に進んでいった。
正確な答えを知りたく、すぐさまリッツが通った僅かに残った道筋に身体を張ってくらいつき、後を追う。
左右前後からの圧迫感とレーベにもらった一撃の場所に時折ひとがぶつかってくる。
顔を歪めてつまった声を出しながらもカインは懸命に前へと進み、ようやく盛り土から見えていたあの余地までたどり着いた。
リッツはどこへいったのかと周囲を伺うと、やや少し離れた場所で他の群衆とともに声をあげて騒いでいる。
街の人を巻き込んでまで大騒ぎする程の事はいったい何なのか。
カインは下船しはじめた船員達に注目した。




