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田舎者のカインが冒険者カインとなる章の初めになります。
仲間との冒険をお楽しみください。
数段の階段を上った先に二メートル近くの堀の深い彫刻があしらわれた観音開きの出入り口を冒険者たちがひっきりなしに往来している。背中に大きな剣を担ぐ者や腕ほどの短弓を自慢気に語る者など、それぞれが得意とする獲物を携え、目には野心と欲望を潜ましている。
「入れるかな」
自信の無い声でカインが呟く。
気持ちだけでここまで来たが、いざ目の前にすると周りとくらべて自分の矮小さに嫌気がさす。
屈強な肉体に余裕の笑みをちらつかせ、背中からは近寄りがたい雰囲気を滲み出す。
「なにいってんのよ。ほら、早く入るわよ」
「う、うん」
半ば強引に少女がカインを引っ張り、刷り込むようにして並び、緊張する足元を悟られないかのように気丈に歩いてみせた。
どうやらカイン達は目立つ存在のようで好奇な目で視線が集中するも少女は気にすることなく近づく入り口に心を高鳴らせていた。
そうしてようやく、最後の階段を登り終え、憧れていたギルドへと入ることができた。
「うわあ」
思わず出入り口で立ち止まる。
三階まで吹き抜けの大きなホールが眼前にあり、左右にはカウンターが用意されていた。
そのカウンターには数人ずつ受付嬢が立ち、各々の業務の対応にあたっている。
離れた場所には巨大なコルクボードがあり、コルク生地が見えないほどの紙が無数に張られていた。
「邪魔だどけ」
カインの背中を巨漢の男が指一つで動かした。
つんのめりそうになるも、寸前で踏ん張りこらえた。
振り向けば、右頬に爪で引っかかれた傷跡のある悪そうな男が無表情でカインを見下していた。
「ご、ごめんなさい」
「気をつけろ」
勢いよく頭を下げて謝罪すると、男は素直に去っていった。
少し離れていた少女が駆け寄り、心配そうにカインの顔をのぞきこんだ。
「ちょっとあんた大丈夫?」
「う、うん。平気」
カインは平気だと表面では語ったが、内心は怯えていた。
小路であった男とはまた違った威圧感にたじろいでしまっている。
「それならいいけど……」
「心配かけてごめん」
カインは拳を握って悔しさを堪える。
実力のない者が味わう最初の試練であった。