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はじめまして。『小説家になろう』で初めて書かせていただく作品です。
この作品にはインフレやチートといったものは可能な限り無くし、平凡な人間が困難に直面した際にいかに行動するかを書きたいと思いっています。
昨今の流行りは上記のものが多いですが、元来、努力して功を成す。というのが地にあった営みではないかと考えており作者自信も、「与えられ得た物」よりも「自己の経験により得る物」を好みます。
ですが、その時々の気分によって脱線してしまう部分も出てくるやもしれません。
予めご了承頂いた上で、作品を楽しんでいただければ幸いです。
整地の行き届かない荒れた街道を一台の幌馬車が進んでいた。
御者台に座る老人が馬車内で大人しく寝息を立てる少年を一瞥する。
遠望の山の稜線より朝日が顔を覗かせ、幌馬車の行く先を導くかのようにして薄暗かった道を照らし始める。
「坊主、起きろ」
御者がしわ枯れた声で少年を呼ぶ。
昨晩、道端で露営した際に少年から言われた言葉を思い出していた。
「起きろ。陽が見えたら起こしてくれって言ったのはお前だぞ」
再度呼ぶが返事はなく、顔を後ろに向け側臥位になったまま起きる気配はない。
ただ背中の動きで呼吸していることはわかるのでひとまず安心をする。
やがて幌馬車はそれまで単に土を叩いて固めただけの路面から石畳のものへと変化し、牽く二頭の馬の蹄が軽快な音を叩き始める。
旅馬車家業を長くやっているがこの瞬間は何百回経験しても気持ちが良い。
一方で起き上がる気配すら見せない少年に苛立ちは限界を迎えようとしていた。
「いい加減にしろよ!」
抑えていた感情が爆発し、馬車内に御者の声が短く響く。
それに馬たちが驚いて少し暴れてしまい、宥めるように手綱を緩めてやる。
そして馬のいなないた後、物音がした。
「おはようございます」
御者が振り返ると、少年が上半身を起こしていた。
帆を張るための骨組みを背もたれ代わりにし、目は閉じたまま今にも二度寝しそうな勢いでうつらうつらうしている。
短く切り分けられた髪を少し乱しながら、大きな欠伸をするその態度に御者の怒りは呆れへと変化した。
「朝になったぞ」
道の先を照らす陽光を顎で教えてやる。
「へぇっ?もう朝ですか?」
御者の言葉に少年はゆっくりと立ち上がり、御者台に遠慮なく座った。
半目の顔に暖かな日光が優しく降り注ぎ、徐々に頭が覚めていく。
「あそこに丘が見えるだろ」
進む街道の少し先、醗酵して膨れたパンのような丘が緩やかな登道の先で待っている。
「あれを超えれば街が見えるはずだ」
「いよいよかぁ」
少年の純粋な明るい声に御者は少し嬉しく感じる。
村から一度も外へ出たことがないと馬車に乗る前に言っていたがあれは本当の事らしく、落ち着きの無い様子で今にも身を乗り出して駆け出すのではないかという勢いだ。
「お前さん、一体あの街に何の用があるんだ?」
「冒険者になるために」
「冒険者?」
「そうです。昔からの憧れなんです」
御者は隣で目を輝かせる少年にかつての自分を重ねた。
昔、この少年と近い頃に自分もそのような事を言ったと思い出していた。
「冒険者になる、か」
「変ですか?」
「いんや。そう名乗るやつらをたくさん乗せてきたし、俺もそういうのに憧れてた時期があった」
御者は遠い目でまだ陽の当たらぬ東の空を見つめる。
「ただ、現実は上手くいかねぇ。夢見るのは若者の特権だが、続くかどうかは結局そいつ次第よ」
「……」
御者の言葉に少年は俯いて口を閉ざした。
「ああすまねぇ。脅しのつもりじゃねぇんだ。わるかった」
御者が慌てた様子で少年に謝罪をした。
思わず手に力が入り、意図せず馬たちを急かしてしまい馬車は速度を上げて丘を一気にのぼる。
抑えようと手綱を動かすもどこか鬱憤が溜まっていた馬たちは主の言う事など聞かず、丘をのぼりきった。
開かれた景色と眼下の街に落ち込んでいた少年は顔をあげた。
「すごい!」
「ああ、この辺じゃ一番でかい街だからな」
「あの」
「ん?」
「それでも冒険者になりたいです。昔からの憧れですから」
「そうか。それなら期待させてもらうぜ」
馬車はゆっくりと街へと続く道を進んだ。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
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