第9章 ストイック
彩子の部屋を見て
改めてストイックな女性だと感じた。
本棚の専門書はよく読み込んだ跡があった。
ヨガマットとダンベルも部屋の片隅に
置いてあった。使い込まれていた。
彩子は努力家なんだな~と思った。
「彩子はストイックだね」哲也は言った。
「え~なんで急にそんなこと言うの?」
「なんだか、あんまり嬉しくないな~」彩子は不満そうな顔を故意にした。
「ストイックって褒め言葉なんだけど」哲也はフォローした。
ギリシャ哲学のストア学派が言葉の由来らしいよ。
内なる理性に従って自分を律することで幸福を得られる・・・というような考え。
その辺の哲学は不確かだけどね。
彩子は目的意識が強いし向上心ある、
意志が強くて、努力も継続できる。
それが彩子の今までの生き方だと感じる。
キレイな体型は、継続的に
ストイックに鍛えていることを物語っていた。
体幹がしっかりして姿勢がいい。
しなやかな筋肉もある。
ストイックというのは
彩子は自分の目標や理想のために
自分を律することが出来る女性っていう意味だよ。
「え~そんないいものじゃないよ」彩子は照れて笑った。
「でも、なんで私が筋肉があるって思うの?」
「昨夜から朝まで一緒にいたし・・・・」一緒に寝たとは言わなかった。
「もう~、そういう風に私の体を観察するのはどうなのかな~」
彩子はあきれたように文句を言った。
彩子みたいな女には軽薄な男は近づけない。
彩子は、そもそもそんな男達はお断りって感じだろうけど。
恋愛経験が少ないって言ってたね。
確かに彩子に相応しい男は、少ないかも。
哲也はちょっと冗談を言った。
哲也さん、銀行じゃなくてアメリカの
FBIにでも行ってたんじゃないの。
私のプロファイリングして遊んでるね。
彩子は何かを考えているような顔をした。
彩子に敬意を持っている、ということだよ。
割と重いダンベル見ちゃったしね。
あんなに読み込まれた専門書、初めて見たよ。
哲也は敬意を表した。
私は、何でも完璧にできる女みたいに誤解される。
本当は優秀ではないのに。
しょうがないから一所懸命、頑張っている。
人より多く頑張って、なんとかなっている。
アヒルと一緒。
余裕でのんびりみたいな顔してるけど、
水の中の脚は必死に動かしている。
ストイックとは言えないよ。
悩んでばかりだよ。
いつも自問している。
これって意味あるのかなって。
何もかも放り出したいとか。
自分を追い込み過ぎだと思ったり。
上手くいかないことの方が多い。
でも人前では挫折感を出せない屈折した女。
いつもクールで強気の女。
可愛くない女。
優しい哲也さんにも女性蔑視だとか
文句を言ったりする女なんだから。
ストイックって能力があって
もっと道を極めた人に使う言葉だよ。
私は能力ないから、
ドタバタもがいている女って感じかな。
彩子は少し自嘲気味に話した。
彩子が目的や理想に向かって頑張っている姿は
素敵でチャーミングで美しいと思うよ。
彩子は理想や目標が高いんだね。
そのスタイルだって、日々鍛えたんだよね。
だからこんなにキレイな体型を維持している。
自分を律するのはつらいよね。
すごく、よくわかるよ。
上手くいかなくたって
その努力の過程が尊いって思う。
そんな彩子のことが好きだよ。
哲也はそんな感じのことを言った。
彩子に敬意を感じながら
同時に彩子が愛おしい女性に感じた。
彩子は安心したようにニコリとした。
そんな風に言ってもらったのは、初めてだよ。
透き通るような白さの綺麗な顔が少し赤らんだ。
素直で可愛い女性だと感じた。
「哲也さんって食事は何が好きなの」
「夕食の買い物、一緒に行こうよ」
彩子は、私の腕に手を載せて買い物に誘った。
細長くてしなやかで綺麗な指だなと思った。