第6章 夜明け
外が少し明るくなっていた。
夜が明けてきた。
彩子は美しい女性だったが
どこか陰があるように感じた。
それは男社会のなかの逆風に抵抗している
ことも一因だったのかもしれない。
私、哲也さんにキレイと言ってもらって嬉しかったんです
ほんとうは。
それなのになぜか、突っかかってしまいました。
普段は聞き流しているんですよ。
「美人会計士」みたいな言い方されても。
でも後で、少し悔しくて自己嫌悪するんです。
なんであの時、言い返さないんだって。
哲也さんには、普段言えないことも言える気がして。
この人は私のことを受け入れてくれる。
価値観が同じ人だと感じていました。
哲也さんは聡明で優しい人。
女を一人の人として見てくれる。
最初に出逢った瞬間からわかっていました。
私は哲也さんに甘えたんだと思います。
私は早苗さんの話を聞いて
哲也さんの優しさを確信しました。
哲也さんは仕事を選んだ早苗さんのことを
少しも悪く言わない。
早苗さんのことばかり想っていて、
彼女の幸せだけを望んでいる。
私はすごく早苗さんに嫉妬しました。
早苗さんは、ずっと哲也さんに
優しく愛されてたのだろうなと思いました。
彩子は話が止まらなかった。
哲也は黙って聞いていた。
出逢った瞬間から彩子のことは好きだった。
今、彩子からも好意の気持ちを聞かされ
哲也は嬉しかった。
彩子の顔に疲労の色を感じた。
昨夜からのことを考えると、少し仮眠しないと
危険だと思った。
少し、仮眠をとりましょう。短い時間でも。
と彼女をベッドに向かわせた。
彩子は小さく頷いた。
今度はベッドを拒まずに横になった。
哲也はソファーで休むことを告げ
照明を落とした。
しばらくすると
「哲也さん・・・そばにいてください」彩子の声が聞こえた。
「そばにいますよ」
「どうしました」と哲也は彩子に近づいた。
彩子はベッドに一緒に入って欲しいと小さな声で言った。
哲也は黙ってベッドに入った。
「狭いね」と言って哲也は笑った。
「さっき、私のこと好きかと聞いたら」
「はい、と言ってくれましたよね」
「もう一度ちゃんと言って欲しいです」
と彩子は天井を見ながら言った。
「彩子さんのことが好きです」と哲也は言った。
「彩子って呼び捨てで言ってください」彩子は言った
「え~注文が多いですね」
「彩子のことが好きです」ともう一度言った。
「私は哲也さんのこと、その100倍好きです」
と言って彩子は私の方を向いた。
彩子の吐息を感じた。
目が慣れて暗い中でも彩子の表情が良く見えた。
彩子にそっと軽く触れるようなキスをした。
彩子は哲也に体を寄せてきた。
彩子の感触を哲也は全身に感じた。
哲也は彩子の髪を優しく撫ぜた。
「今日はここまでにした方がいいですよ」
「次はどこか一緒に旅行に行きませんか」
「この続きは、その時に・・・・・」哲也は彩子に優しく言った。
「約束ですよ、絶対に」
「すごく楽しみです」彩子は強く抱きついてきた。
そして今度は自分からキスをしてきた。
「だから、続きは今度って言ってるのに・・・」
「彩子は、いい女なんだから」
「我慢できなくなってしまうよ」哲也は文句を言った。
「哲也さんも、普通の男みたいなこと言うんですね」
「ちょっと安心した」と彩子は恥ずかしそうにニコッとした。
「本当は煩悩のかたまりだよ」哲也は言った。
「私はいい女で、美人会計士かな~」彩子は笑顔で言った。
「最高にいい女だと思う」と言うと
彩子は嬉しそうな表情をして
哲也の胸に顔を押し付けてきた。
「彩子は少し仮眠をした方がいいよ」
彩子の艶のある綺麗な髪を優しく撫ぜた。
「哲也さんの匂いは心が落ち着くよ~」
「胸の筋肉がすごいね」
安心したように彩子は子供のような表情で眠りについた。
彩子の寝息を感じた。
昨日から疲れがたまっていたんだと思った。
哲也もすぐに眠りについた。