第1章 出逢い
彩子と出逢ったのは
2011年3月11日の東日本大震災の日だった。
哲也の勤務する日本橋のオフィスが大きく揺れた。
今までに経験のない大きな揺れだった。
ついに関東大震災か来たのかと恐れた。
幸い哲也のオフィスは少し書類が棚から落ちた程度で
被害はなかった。
東北が震源地で甚大な被害が出ているらしいとの
情報をニュースで知った。
公共交通機関は全線ストップしていた。
最初はそのうち再開されるだろう程度に軽く考えていたが
それは大きな間違いだった。
歩いて帰宅出来る者は帰宅するよう指示が出た。
哲也は1時間程度で帰れる距離なので会社を出た。
街は帰宅する人で歩道は埋め尽くされていた。
隅田川を渡るための両国橋は人が特に集中していた。
余震があったら群集心理のパニックで大変なことに
なっていたかもしれない。
車道は車が大渋滞していた。
ほとんど進んでいないように見えた。
初めて経験した異様な光景だった。
哲也は、幸運なことに会社と自宅マンションが
5キロ程度の距離だった。
何の問題もなく帰宅できた。
夜の7時は過ぎていた。
街が暗くなり冷え込み始めていた。
マンション入り口のホールのベンチに
女性が座っていた。
普段、見かけたことのない20代の上品な美しい女性だった。
その女性は
「申し訳ございません」
「少し休ませていただいています」
と申し訳なさそうな顔で言った。
ベンチから立つときに右脚を少し庇っているように見えた。
上品で整った美しい顔立ちをしていた。
ダウンコートの上からでも
スタイルの良さを感じさせた。
しっかりとした知的な話し方に
哲也は、少し動揺した。
「あっ・・・全然、問題ありませんよ」
と私はぎこちない笑顔で応えた。
やはり・・・マンションの住人ではないんだ~。
こんな美人がここに住んでいるわけないよな~・・・と思った。
哲也はそのまま、エレベーターへ向かった。
彩子との出逢いだった。