運命共同体になるんだー...?
急がないと先輩(仮)が死んじゃう!
く〜〜〜ッ!くそっ!
【共有知覚存糸】
この糸は相手の状態に関係なく、情報を出し入れすることが出来る糸だ。あまり便利とはいえないけど、私達蜘蛛は、これで身内とやり取りしていたんだ。···巣に引っかかった物を使って。そう、本来これは死体に使うものなんだ。だからあまり、生者に使いたくない。が、私の目的のためなんだ!折れてはいけない道もある。
で、これを相手の何処に突っ込めばいいのだろう。身体に繋げるわけではないから何処でもいいんだけどね。
···首筋にしよう!一番通しやすいし、一番使わなそうだしな!私ほど人間に優しい蜘蛛などいないだろうな!ふふーん♪
──スルスルッ
小蜘蛛の下腹部から細い、透明な糸が現れる。だがそれは下腹部から直に出されたわけではない。どちらかといえば、生命力を糸として可視化された状態で細く長く出されている。体内ではあるが、3次的な場所ではないのだ。そして、この糸は決して切れることがない。
小蜘蛛が出した糸が首元から女の体に入っていく。
「うぅっ、」
女が悶える。当然だ、その糸は魂へと侵食するのだから。形こそ変わらないが、魂に干渉している。例えるのならば、体の原型を内側から変えられているような感覚だ。言いようのない快感が体を襲う。体の発光はとうに収まっていた。
1分もしない時間が経っただろうか、女が呼吸を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。
「一体何が···!じ、自壊が出来なくなってる、」
❨勝手に死んでもらったら私が困るから、消しといたよ?❩
「..!」
突然、頭の中に声が響く。女は周りをキョロキョロ見渡し、声を上げた主を探す。一通り見回して結論に至る。
「も、もしかして貴方が何かしたの、」
女は、未だに腕の上に乗っている小さな蜘蛛に視線を向け、問いかける。それがどれほど滑稽なことだとは己が最も承知していた。魔物は知能が衰えているため、コミュニケーションなど取らない。世界中で周知されている事だ。だが、それでも聞かずにはいられなかった。
そして何より、彼女は敗北者だった。
❨そうだよ。こんにちは、スパイさん。私はスパイダー。追従する名前は知らない。でも、悪い蜘蛛じゃないよ?❩
蜘蛛が常識を破って受け答える。丁寧に腕から掌に移っての自己紹介だ。腕に鳥肌が立つ。いくらサイズが小さくても、自分の体を虫が這うことに不快感は覚えるだろう。女にとって不幸だったのは、相手側に悪気と遠慮がないことだった。
❨それじゃあ早速だけど、私をスパイにしてほしいんだ!❩
訳もわからず爆弾を投げられたような気分になった女だった。
名前はまだ決まってないんだーなー..ヤバ!