58.専業vs兼業
「新人賞を獲っても今の仕事を辞めないで下さいね!」
編集者が新人作家にイのいちばんに言う言葉がこれだそうです。
本当に編集者がそう言うのか気になった私は、受賞後試しに
「仕事を辞めて専業になりたい」
と言ってみました。
やはり全力で阻止されました。(やめれ)
理由は以下の通りです。
①作家の収入は少ないから。
②アイデアや人気が続くかどうかは分からないから。
③収入が別にあった方が、安心感からか次の作品を書きやすい。退路を断つのは悪手。
うーん、まあ確かにそうですね。
<作家の収入は少ないのか?>
そうは言っても、作家がどれぐらい稼ぐのか?イメージの沸かない方は多いでしょう。
作家志望の方々に向け、実際に紙書籍を一冊出したら年にどれぐらい稼げるのか計算してみましょう。
多くの出版社は
〝本の価格×刷り部数×印税(%)=支払額〟
の形式をとっています。
本の価格は大判なのか文庫なのかで変わって来ます。
刷り部数は各社マチマチです。(最近はかなり部数が減らされていると聞きます)
印税も各社で違い、紙書籍ならば6~10%ぐらいが相場のようです。
最大値である印税10%で計算してみましょう。
大判(1300円)を5000部刷った場合、65万円となります。
一方、文庫の場合はどうでしょうか?
印税10%、文庫(800円)で5000部刷った場合、40万円となります。
この辺りから税金が引かれた分が、作家の収入となります。
書籍はシリーズにつき年に2冊ぐらい出すのが限界です。
となると、運良く次巻が出るとしても、年収は印税10%なら大判で130万円、文庫で80万円となります。
うーん。
確かにそれだけでは暮らせないな……という現実が見えて来ました。
サラリーマンの平均年収は400万円と言われていますから、到底及びません。
では、年に何冊出せばサラリーマンの平均に届くのでしょうか?
大判なら6冊、文庫なら10冊です!(絶望)
これはもう、編集者が止めに入るのも無理はありませんね……!
<それでも専業になりたい人へ>
小説だけではかなり収入は不安ですが、コミカライズが出れば更に印税の上乗せが可能となります。
(とはいえ、漫画家さんより取り分はかなり少なくなります)
私は今のところヒット作がないので何とも言えないのですが、X(Twitter)にいる人気専業作家さんによると、書籍とコミカライズ同時進行で5シリーズ続けられれば人並みの生活が出来るそうです。
コミカライズは作者の作業量が比較的少ないため、執筆と並行させることが可能なのです。
専業を狙う方はコミカライズを受けると近道かもしれませんね。
とはいえ、以前のエッセイでも散々申し上げておきましたが小説が売れるかどうかは運要素が大きいので、一時的に5シリーズ出来たとしても一寸先は闇です。
人気がいつまで続くかは、作家も出版社もまるで予想がつきません。
出版とは、いわばギャンブルなのです。
そうなるとやはり兼業が一番安全に作家業を楽しめると言えるのかもしれません。
<それでも>
せっかく一度きりの人生ですから、一時的に全力で作品にぶつかってみてもいいのかもしれません。
やらない後悔より、やる後悔。
私自身、病気がきっかけで一時、無職になりました。
それを事のついでに報告すると、編集者はギラギラした目で私にこう言いました。
「無職になった?じゃあ専業ですね!今こそ小説を書きましょう!」
あんなに無職になるなと諭した前述の編集者は、いざ私が無職になった時「書かせるチャンス」と思ったようです。
いやおかしいやろ……今こそ止めろ……
何がどう転ぶかなんて、誰にも分からないのが人生です。
自分しか、自分の人生に責任は持てないのです。
専業/兼業を選ぶのはその人の自由。
やれるならやれるだけやっちゃいましょう!