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51.作家の負け方〜筆を折らないために〜

 インターネットは恐ろしいところです。


 売れてる作家も売れない作家も、小説家志望も小説家を諦めた人もこだわりの強い読者も、皆等しく発言権を得られる場所です。


 SNSはもちろん、なろうもそうです。


 望む望まないに関らず、スマホには創作に関する情報が常に流れて来ます。


 売れている作家の創作論。賞レース突破の喜びの声。書籍化の宣伝アカウント。読者からの感想。


 インターネットのない時代、これらの情報は目に入りようがありませんでした。しかし現代は不用意に他者の動向を見せつけられてしまい、誰でも幾度となく敗北感を覚えてしまいます。


 特に賞レースの前後は、創作アカウントが阿鼻叫喚で溢れ返ります。


 私も公募に落ち続けなろうに漂着し出版したひとりですから、これらの傷跡を読むたびに心に迫るものがありますし、書き込みに共感してしまうこともしばしば。


 愚痴を呟くと前向きになれる!頑張っている作家さんを応援すると元気になれる!という人はいいのですが、愚痴を書けば書くだけ気持ちが落ち込んでしまう、他者の頑張りに嫉妬して書く気が起こらなくなるという方は、ちょっとばかりスマホの手を休めておやつでも食べましょう。


 甘味に負けてしまいましょう。


 お風呂に入るのもいいですね。


 温かさに負けてしまいましょう。


 睡魔にも負けましょう。


 全ての誘惑に負けましょう。


 現実に負けましょう。


 そうすればちょっとだけ、気持ちが楽になるでしょう?




 というのも、私は公募に落ちまくった経験から、もし創作をしていて心が追い詰められた時はさっさと「降参」し、負けを受け入れ休んだ方が予後がよい、ということに気づいたからです。


 誰かに愚痴るのでも構いません。ふて寝やドカ食い、別の趣味に走るのもいいかもしれません。一度、創作から思い切って離れてみるのです。


 我々はいつだって負けます。勝つことなんか稀です。


 なので「敗走」のための準備を常にしておきませんか?


 作家になるには、どうしても勝ち上がることを要求されます。そうやって数字を追い求めるのはゲームみたいに楽しく、いっとき人の心を満たしてくれます。


 しかしそれに溺れると、今度は数字を取れなくなるのが怖くなって来るのです。


「数字を貰えない=負け」


 このような思考に苛まれ、「なぜこうも上手く行かないのか」とあなたは自分を追い詰めます。


 そうなって心を病む前に──諸手を挙げて降参してみて欲しいのです。


 作品を次々発表して矢継ぎ早に負けてしまうと、もう心が持たず、筆を折りかねません。


 心の回復を優先させてみましょう。




 勝つのは素晴らしいことです。社会は常に私たちに勝つことを要求して来ます。


 でも、本当は、負けるのだって勝つのと同じぐらい価値のあることです。


 あなたは戦いました。でも数字を得られなかった。


 どうして?と悩むあなた。


 そこで、あなたの今まで描いた主人公を思い出して下さい。


 勝つまでに、その主人公は何をしましたか?


 そう、強者と戦った。負けてしまって、それでも諦めずに修行した。


 婚約破棄されて、罪を背負わされてしまった。でもどうにかひとつの特技を磨いて這い上がった。


 クラスでいじめられたけれど、別の環境を見つけるや、あなたを守ってくれる人が現れた。


 そう、主人公はみんな負けているのです。




 あなたの書いた物語に、あなたという主人公の活路があります。


 負けた後にどうするかは、あなたのキャラクターが教えてくれます。


 これだけ本屋に敗者がのし上がるストーリーが溢れ返っているのは、読者みんなが何かに負けた経験があるからです。


 あなただけではなく、全人類が毎日何かに負けています。


 勝つことは、大ニュースです。勝つことなんて、滅多にないのです。実際のところ皆さん何かに勝った経験って、思い返してもそんなにないと思います。


 それなのに、インターネットで勝者が可視化されるようになり、その一方でみな負けを認めるのが難しくなってしまいました。そうして巷に負けが見当たらなくなった結果、敗者が異端のように感じられる、とんでもない空間が出現してしまったのです。


 でもそれは、単に「負け」が隠されてしまっただけなのです。




 これを見ている作家さん、負けたって大丈夫ですよ!


 私は公募一次落ち率90%ぐらいなので、ほぼ勝負に負けています。


 それに、「負け」だって立派な経験。何かに挑戦したあなたにしか得られない宝物の一部です。


 負けた時どう心を守るか、どう次に繋げようか、次は何を書こうか、筆を折らないためにはそれが一番大事なこと。


 あなたにとって次に繋がる「負け方」を見つけてください。


 また、「負け」を殴ったり恨んだりするのはかわいそうだからやめてあげてください。


 負けた経験も魅力あるあなたとその作品を形作る、大切で素敵な一要素なのですから。

 私の「負け方」は、負けの経験をこのように「作品」として発表することです。

 「負け」を文章におこして俯瞰で眺めることでしか得られない癒しがあると考えています。

 あ、ドMとかそういうことじゃなくてですよ……?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後まで一気に読みました。気付かされることが多く、とても勉強になりました。現在連載小説で四苦八苦しているので、本作で学んだことを順番に実践してみたいと思います。ありがとうございました。
[良い点] 小説に関しては「待てば海路の日和あり」と思って構えています。 そのうち良い風が吹いて、新大陸が見つかるかもしれない。 ただ、残りの寿命が短いので港で飲んだくれながら死ぬ可能性はあります(笑…
[一言]  この歳になってやっと『ええ無能すから』と迷わず他人の助けを求めるようになれました。(※ある程度たってからでないと自分が無能と思うと病みます)  小説が受けなくてもニュースを見た思考実験を…
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