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す→れ←違↑い↓  作者: 竹村 翔
4/6

This is a terrible world for her.

「今日から、一週間は雨が続きそうです。」

スマホの天気予報アプリが丁寧に教えてくれている。

はぁ。雨か。太陽がなくて気持ちも下がるし、低気圧で頭痛がひどい。

だけど、学校は行かないと。雨でもヒロには会えるからね。

 昨日はあんなことがあったけど、特に何の発展もなく、あの後はただ家に帰っただけだった。ちゃんと家までは来てくれて、いつも通り、曲がり角までお互いに手を振り合った。

正直、意識してないって言ったら嘘になる。ハグの感覚を思い出して、昨日の夜はドキドキで眠れなかったし、今日の朝だって、会えるってことだけでいつもより早く起きてしまったぐらい。

布団を抱いて、ぎゅっとしたけどヒロとの感覚とはほど遠かった。

 というか、この前の『気を引く作戦』大成功だよね。一週間も一緒に学校に行かなかったから、それは、寂しくて。自分で始めたことだけど、どうしてこんなことしているの、って何回も思ったよ。冷たくするのも、ほんとに緊張したし、嫌われるかもって思った。だけど、ヒロは逆に心配してくれていた。それがたまらなく嬉しかったの。悪いけど私の勝ちだよ。

 あまり考えないようにはしていたけど、このままいけば私たち付き合うことになるよね?いつになるかな?向こうから言ってくれるのかな。

告白の言葉はなにかな。好きですとか?僕とフォークダンスを踊ってくださいとか?いやいや、そんなにロマンチックなことを言われたら、私、笑っちゃいそう。

変な妄想はやめて、現実に起こることを楽しみにしておこう。

 用意を始める為に下に降りる。

朝ご飯は、しっかり食べる派。遅刻しそうでも車の中で食べるぐらい。私には心強い味方、母親がいるのだ。

 「真澄。ご飯できたわよ。」

こうやっていつも用意してくれていることに感謝しないと。

今日のメニューはパンと目玉焼きとサラダ。あと、飲み物のオレンジジュース。健康的な朝って感じ。小さい頃から母には、朝ご飯を食べないと大きくならないよ、って言われているからほぼ毎日食べている。今では、『大きくならないよ』という意味を間違って捉えているけどね。

 この前学校のお昼休憩で、朝はパン派?ご飯派?と議論したことがあった。私はもちろんパンって答えたけど、一緒にいた三人はご飯派らしい。だからみんな大きいのか。そういえば、昨日は朝ご飯食べてないよね。そんなことしているから大きくなる気配がないのかな。

 「お母さん。これからは朝、白ご飯にかえてほしいなぁ。」

 「どうして?パンがいいって言うからそうしていたのに。」

 「今は、気分が変わったの。お願いね。」

にひぃ。と笑いながらお願いしておいた。

 「真澄、歯にサラダついているわよ。人前ではちゃんと取っているの?」

もう、うるさいなぁ。いつも行儀が悪いとか、食べ方が汚いとか、そんなの家だからいいじゃんかぁ。

 「わかっているよー。ヒロの前では、」

おっと。口が滑ってしまった。あぶない。気づいてないよね。あはは。

 「そういえば、ヒロ君とは最近どうなの?」

あらまぁ。気づかれていたようだ。でも、昨日遊んだことは黙っておこう。なんだか、面倒くさそうだもん。

 「まぁ、普通。特に変わったことはないよ。」

適当に返事を返したが、顔は嘘をつけないみたい。

 「今日は、元気そうで良かった。先週なんて、今にも死にそうな顔していたから本気で心配したのよ。」

 「あーあれは、色々あってね。」

 「なにそれ。まぁ、なにもないなら良かった。」

そんな話をしていると、シャッターに水が当たる音が大きくなってきた。結構な大雨。こんな中、歩いて駅までなんて無理だ。

 「今日も送ってやろうか?ヒロ君もねぇ。」

なにか企んでいる様な聞き方だが、こんな状況で断るわけにはいかない。ありがたく、お願いしよう。

 早速、ヒロにLINEを送る。

 「>今日も送ってもらうけど、一緒に乗っていく?」

返信が返ってくるまでの間に、残りの目玉焼きを口に入れて、至福のひとときを終わらせた。この焼き加減は母にしかできない。私を理解していると言うためには、目玉焼きの焼き加減試験をクリアしないといけないのだ。何様だ。

 「ごちそうさまでした。」

 今日も私が運ぶ前に、食器を片づけてくれた。私もこんな女性になると身体に力が入る。最近つくづく思う、女手一つ、娘のためにこんなにも尽くしてくれるのは、私が大人になるための見本だって。

 父は、私が八歳の時に事故で亡くなった。今日みたいな雨の日、夕方のことだった。家の電話が鳴り、母と急いで家を飛び出たけど、病院に着いた時にはもう、遅かった。即死だった。

包帯を巻かれた父の姿を今でも忘れられない。父の笑顔。父の仕草。すべてが大好きだった。

 こんな母が、惚れるぐらいの男の人。それが、私の父。

 ヒロはどうだろうか。ヒロは自分の父親みたいになれているのかな。

 そんなことを考えつつ、いつもはすぐに返ってくる返事がまだきていないことに気がつく。どうしたのかな。

  「>寝ているの?」

さっき送ったLINEにも既読はついていなかった。あのヒロが寝坊するなんてことあるんだ。まぁ、いいや。もう少し待ってみよう。

 洗面所で歯磨きをして、自分の部屋に戻る。学校の先生には内緒だけど、いつも少しだけメイクをしている。みんなしているもん。

 昨日の光景が蘇ってきた。あぁー、そこにいたのになぁ。次はいつ家に来てくれるかなぁ。

 ファンデーションとアイシャドウにリップ。これがいつもの学校スタイル。

ガッツリメイクにしたら、職員室に呼び出されて、ごしごし落とされる。そんなの、恥ずかしくて無理。スッピンを見せるのはヒロだけ。普通はヒロに見せたくないって言うのが正しいのだろうけど。

 髪の毛もアイロンをして、いつものストレートにする。やっぱり、これが落ち着く。前のヘアセットは、どうだったかな?そういや、リップのこと気づいてくれていたなぁ。嬉しい。そういうのを気づいてくれるところが高評価ポイント。

 一通りの用意が終わって、もう一度スマホを確認したけど、ヒロからは返事が来ていなかった。

 「>先に行っとくからね。」

なんだか、心配だけどしょうが無い。このまま学校に来なかったら、帰りに家に寄ってみようか。

 母には、ヒロを乗せないでいい旨を説明して、そのまま学校に送ってもらった。変な顔をしてきたけど別に何かしたわけじゃないから、特に触れなかった。

 「いってらっしゃい。」

 「うん。いってきます。」



 「昔は雲を神様と考える地域がありました。雨はというのは、神の恵み。地に生命を与え、川が大きくなって、海になり、そして生物が生まれる。それが今いる人間や動物なのだと。」

 「先生。じゃあ、どうして雨で災害が起こるのですか?」

 「それは、神からのお告げよ。」

 「どういうことですか?」

 「地にいる者が過ちを犯すと、神は天罰を下す。恵みを粗末にすれば、その分の仕返しが帰ってくる。そうやって昔の人々は考えを作り上げた。これはほんの一部の町の考えだから、まだまだ色んな神様がいるのだよ。」

 「そしたら、俺も神様になれるかな。」

高貴のボケでクラスが笑いに包まれる。なにが面白いのか。私は、真顔だった。

 ノートに書き写す黒板の文字。今はなにも頭に入らない。朝、みんなから向けられた奇妙な目線。何かしたわけじゃないのにどうしてだろうか。そんなことが、頭を駆け巡る。

 そのまま授業は終わり、いつものメンバーの一人に話しかける。

 「明梨、疲れたね。今日は雨だから最悪だよね。」

 「そうだね。」

なんだか、素っ気ない明梨に朝から思っていたことをストレートに投げかける。

 「ねぇ、どうしたの?朝からそんなのだけど、私何かした?」

周りの目線が一度にこちらに向くのがわかった。背筋がぴんっと張る。

 「あんたの、そういうところ。とぼけんな。」

何が何だかわからない。どうして叱られたのか。どうしてみんなが私を敵視するのか。当然ながら、抵抗はする。

 「はぁ?なにが。明梨に関係あること、いつしたっての?金曜日以来、会ってないよ。」

呆れた様子をとられる。訳がわからない。

 「まずね、学校にノコノコ来たことがびっくりだわ。」

周りから聞こえる『帰れ』のコール。

 これがいじめってやつか。

こんな気持ち初めて。怖い物知らずだけど、こんなに大勢から敵にされるとさすがに怖い。なにもしていないのに、みんなに真実が伝わらないのが一番つらかった。


気がつけば泣いていた。


ヒロ。助けてよ。怖いよ。


『かえれ。かえれ。おぉ。ほんとに帰ったぞ。』

無我夢中で走った。どうして私が?どうして明梨が?どうしてみんなが?

荷物は、なにも持たなかった。

とにかく、あの場所から逃げたかった。

先生もみんな、敵な気がして、誰にも相談できなかった。だから、なにも言わず学校から飛び出た。

 11時00分。三時間目の始まりのチャイムがなる。

独特な音が、雨に打たれる姿にぴったりだ。

ブラウスは、雨に濡れて中のインナーが透けている。

靴下も、もうすでにグチョグチョだ。


はぁ、はぁ。いつものガードレールだよ。ヒロ。助けてよ。


どこまで、走ったのだろうか。

ここはどこだろうか。

学校からの最寄り駅をもっと先に行ったところかな。

そしたら、まだまだ進めば家に帰れるかな。

このまま、走り続けたら家も超えちゃうかな。


今向かいたいところは、ヒロの家。

スマホも何もかも置いてきちゃたから、連絡もなにも取れない。

このままいなくなったら、誰にも見つからないかも。

ヒロだったら見つけてくれるかな。


だめだ、寒くなってきた。

もう結構走ったけど、家の近くかな。

私って結構体力あるみたい。走ったと言うよりすり足のような感じだけど。さすが、ダンサー。

だんだん雨も弱まってきて、少しは視界が良くなった。

もうシャワー上がりを通り越して、これ以上濡れるところがないぐらいびちょびちょだ。

メイクはもう完全に落ちきった。


雨。神様の恵み。


いじめ。神様からのお告げ?


まさか。

ヒロがLINEを見なかったのって、この事を知っていたから?

一緒になって私を避けているの?

もうなんだか、もっとわからなくなってきてしまった。

もしそうだとしたら、私どうしたらいい?

私がなにをしたって言うの?


涙に濡れた顔も、雨によってかき消される。

やっとついたヒロの家も、いまやどうだっていい。


今はただ、一人がいい。

ヒロがいたってどうにもならないもん。


自分の家。

今は、お風呂。

シャワーなら今さっき、二時間ほど浴びたって言うのに、母がまた入れっていうから今度は湯船に浸かっている。

暖かいって、落ち着く。

冷たいって、怖い。

父は、あんなにも冷たいのに打たれてこの世を去ったのか。怖かっただろうに。

最後ぐらい、暖かいのに包まれたかっただろうな。

今度会えたら、ぎゅっと抱きしめてあげるからね。お父さん。


母がこんなにもすごい剣幕で怒っているのは初めてだ。

心配をかけてしまったのは申し訳ないが、なにもわかっていない。

こんなにも母に苛立ちを覚えたのは何年ぶりだろうか。

また涙がこぼれ落ちそうになる。

部屋に戻って、ベッドに潜ってまた泣いた。


部屋をノックする音。

私は、声も出ないほど泣き枯れていた。

学校のカバンとご飯を持ってきてくれた母は、「暖かいうちに食べなさい。それと、また話を聞かせて。ごめんなさい。」と涙交じりにそう言って出て行った。

正直、ご飯はいらない。

食欲がない。だけど、カバンが戻ってきたのは嬉しかった。

早速、スマホを取り出し、通知を確認する。

やっぱり、まだ返ってきてない。


もう、君には用はない。ハグまでしておいて、こんなことになれば、私を守るどころか見放した。

心底失望したよ。君は、幼なじみなんかじゃない。

ただの、


屑だ。


雨。まだ神様は恵みをくださるの?


朝、昼、夜。

あさ、ひる、よる。

アサ、ヒル、ヨル。

朝、昼、夜。


あの日から五日がたった。

今日は久しぶりに、外に出る。

あれから母に話を聞いてもらって、少しは楽になった。

やっぱり、母は心強い味方。

母はすごく泣いていたけど、もう私は泣けなかった。

友達も、幼なじみもいなくなった。私は完全に一人。

学校には行っていない。ていうか怖くて行けない。


こんなにも青空は綺麗なのか。

今日は、ダンスのレッスン日。

屑は来るだろうけど、私にはもう関係ない。

ただの置物と同然。

話がしたいって思って、またLINEをしたけどもちろん返ってこなかった。

そこで、確信したよね。あいつもみんなと同じだって。


大阪には、母が送ってくれる。

踊れる?とか、大丈夫?とかすごく心配されたけど、まったく大丈夫だと思う。

だって、ダンスはいつだって私の味方だもん。

踊れば、なんとかなるだろう。

練習は一切できてないけど、まぁいいや。

ごめんね、ダンス。ごめんね、金髪先生。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 描写が鮮明で、読みやすいです。 [気になる点] 登場人物の名前(漢字)が読めないところがあります。 [一言] 頑張って下さい。 楽しみにしています。
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