闇い街の中で
闇に落ちた街の中に、タッタッタッと走る様な音が響く。
否、その男は走っていた。怯えたような顔をして、男は何かから逃げていた。
まだ追ってきている。男は直感でそれの存在を感じ取っていた。
男は歴戦の殺し屋だ。修羅場や死線を幾度もくぐってきた男だ。自身の直感に助けられた事も何度もある。現代社会において最強の称号を与えられている。
「なんでだよ…っ!なんで俺が…っ!!」
彼は何も聞かされていなかった。いつも通りに依頼をこなして、帰路へ着いた所であった。そこへ訳の分からないまま奇襲を受けたのだ。
奇襲からは逃れたものの、未だに追われている。あの禍々しい雰囲気は忘れようとも忘れられないものであった。
あれには勝てない。己の技量、実力を熟知していても、いや、熟知しているからこそ、分かってしまった。
周りはいつの間にか住宅街となっていた。高い塀に囲まれ、家々が立ち並ぶ。
目の前に十字路を確認し、何処へ進むか思考を巡らせた。
だが、男は十字路に差し掛かる手前で足を止めた。
「なっ…。いつの間に……!?」
少女がいた。中学生くらいだろうか?しかし、放たれる禍々しい雰囲気、あれは先程まで自分の後ろにいた追手のそれと同じであった。
止めた足は言うことを聞かず、引き返す事も出来なかった。
「何故…っ…。何故俺を狙う!?」
男は理由を知りたかった。今まで散々殺してきた身だ。殺されようとも文句は言えない。
狼狽える男に、少女は一言、
「…ごめんなさい」
とだけ告げ、右手を上げた。
少女の足元に魔法陣が広がり、中から巨大な獣が姿を現した。頭と身体は獅子なのに、背中からは翼が生えていて、尻尾と思しき部分からは蛇がこちらを睨んでいる。
「なんだよ…ソイツ…っ!訳わかんねぇよ!!」
突然の非現実的な光景に男は更に混乱する。
少女が右手を振り下ろすのと同時に、獣は男へ飛びかかった──────────。
男の死体を目の前に、少女は獣を魔法陣の中へと納めた。
ほんの少しの間だけ目を閉じると、少女はその場から跡形もなく消え去った。