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エッセイ

やっちまった

作者: 中原 誓

 『あっ!』と思った時は、手遅れであるのが世の常である。

 しかも忙しい時ほど、それは起きるのだ。


 たとえば、通勤バスに乗る瞬間にスマホを忘れた事に気づいたり、飲み会へ出かける支度をしている時にお気に入りのスカートのホックが取れたり、午後から会議って時に一時間かけて入力した会議資料のエクセルデータをオシャカにしたり――挙げれば枚挙にいとまがない。


 忙しい時ってのは、集中力が散漫になるのだ。


 失敗しても不思議ではない。


 が、白状すると、『ここにあったらやりそうだな』と以前から思っていたのは確かだ。


 危険予知はしていたのに、軽く考え、大丈夫だろうとドタンバタンと動いていた私の手にそいつは引っ掛かった。

 まるで振り返った怪獣の尻尾に弾かれた電車のように宙を飛び、床に落ち音をたてて粉々になったのは、コーヒーメーカーのガラスポット――朝、夫の弁当を作っている最悪の時間帯のことである。


 あーぁぁぁぁ 時間がぁぁぁぁ

 ガラスがぁぁぁぁぁ

 掃除機出すの面倒くせぇぇぇぇぇ


 全てがない交ぜになった唸りをあげた私に、『どうした⁉』と見に来た夫は脱力したように笑って、『割ったものは仕方がない』と言った。


「いや、待ってよ。仕方なくないっ! 休みに飲もうと思って豆取り寄せたばっかりなんだよ。楽しみにしてたんだよ」

「ネットで探せば替えのポット売ってるだろう。今日頼めば二、三日で届くんじゃないのか?」


 そんな会話を交わしながら、二人でせっせとガラスを拾う。

 なにせ、二人ともこれから仕事だ。


「仮想災害報告書のネタ、一つできて良かったな」


 よくはないが、労働安全衛生教育用の報告書をいつも悩んで書いているのは事実なので、反論できない。

 おまけに、報告書の事故要因を選ぶ項目に当てはまりすぎて、『安全教育、生かされてないじゃん、自分!』と、項垂れた。


 それからバタバタとコーヒーメーカーの型番をメモして、通勤の車中でネット注文をした。

 最短で火曜日に届くとの事だったが、時間指定の都合で水曜日にしてもらった。


 ああ、これで週末にコーヒーが飲めるぜと、ウキウキした。



 だがしかし――



 木曜日の未明に北の大地は大地震に見舞われ、周知の通り、電力はブラックアウトしてしまったのであった。






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