序章
人はおろかな生き物である。
それはもう何十年、何百年も前から言われ続けてきたこの世の真理。
天人族や魔人族のように莫大な力を持つわけでもなく。
鬼人族のように強靭な四肢を持つわけでも、竜人属のように長命で聡明なわけでもない。
人に固有の能力は無い。むしろ、特別な力がないからこそ、他種族は人を人と呼ぶ。
人は考えた。
どうすれば自分達が他の生命と並び立てるのか。
足りない才能を埋めるためには、翼を、鋼の肉体を、備えるためには何が必要か。
ちっぽけな人間たちは、やがて一つの結論にたどり着いた。
――自分達が強くなる必要はない。自分達を強くするなにかを作ればよい。
そうして人は、モノを作り始めた。
自分達で強さをまかなえないなら、その要因を自分達では無いところに求めれば良い。
人々の生活は激変した。
虐げられるだけだった人間は、そうして武装を始めることで、他の種族と対等に付き合うことができるようになった。
それで終わらないのが人という生き物であった。
力を手にした人間は、傲り、増長し、それまでの鬱憤を晴らすように更なる力を求め、成功した。
人はすべてを手中に収めようと、その軍事力をもって全種族を敵に回した。
世界は戦乱の世になった。
誰もが疲弊し、人間の欲望というものに呑み込まれていく。
――だが、またその世界を救うのも、人間という生き物の持つ善性であった。
とある人間が声高に戦争の終結を願い、唱った。
種族の垣根を越えて、その声に賛同し、集うものたちがいた。
彼らは異種族混合ならではの交遊力の広さと、また集団内部の仲の良さでもって世界各地を巡り、2年と少しで戦争を収めてみせた。
とある人間が立ち上げたとされる、あらゆる種族が集まって成した、平和を謳う伝説的な集団。
戦争を終わらせた功績から、人々は彼らを称えてこう呼ぶ。
――尊き平和の旅団、と。