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第一話

「俺は死んだのか?」


 俺の名は加藤雄二。三ヶ月後に卒業を控えながらも進路が決まってない高校生だ。未来暗き前途なき若者だ。


 そして、目の前には自分の体があった。


 最後に覚えてるのはナイフをもって暴れている男を不意をついてナイフを奪おうとした事だ。間違いなく不意はつけたはずだ。


「あれ?なんで死んでるんだ?」


 目の前にもうひとつ先程暴れていた男が死んでいる。俺の襲撃が失敗したとしてもこいつは死んでるのがおかしい。しかも、俺もこいつも怪我らしい傷がない。


 そして、もうひとつは目の前にさっきから土下座している女性だ。いや、俺が魂なら見えてないんだろうけど。

 

「あの・・・・・なにやって?」


「申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ」


 一応念のために声をかけてみたら返ってきたのは応援団顔負けの声量の謝罪。


「あれ?見えてる?って事は死んでない」


「いえ、死んでます。私死神のキリエです。えっと、怒らないで聞いてくださいね」


 顔を上げると目を奪われるような美少女だった。


「実は先程ナイフを振り回していた男は今日魂を刈り取る予定でして」


「あぁ、通りで何で死んだかわからないはずだ」


 間違えて俺まで刈り取られちゃったのか。


「え?あの・・・・怒らないのですか?」


「そっちが怒るなって言ったんじゃん。それで生き返れるの?」


「それが実は・・・私はできないですけど普通ならそれなりに高位の神様ならできるのですが。ギリギリだったのでちょっと力入れすぎちゃって。どんな神様にも無理です。てへっ」


 そっか。生き返れないのか。


「まぁ、仕方ないか」


 どんな理由であれ死んでしまったのだ。大人しく受け入れよう。


「えっと、度々聞きますが怒らないんですか?間違いで死んだんですよ。普通罵倒くらいされる覚悟はあったんですが」


 何も思ってない訳ではない。これがむさいおっさんなら一言くらい文句言った。でも、その程度の事だ。


「意図的にやったならともかく、間違えて・・・・・まぁ、事故だから悪気があった訳じゃないからね」


「私は正当な仕事の時。あるいは、天命を全うした魂を運ぶときですら怨み言。泣き言を言う人がほとんどです。もっと生きたいと願う人がほとんどなのに生に執着はないのですか?」


「かなり薄いね。正直一部の家族や友人に悲しい思いをさせたくらいかな」 


 父はとっくに死んでる。母や姉は泣いてくれるだろうが。正直、この先迷惑をかけずにすんで良かった。妹は互いにごみ扱いしてるような関係だ。葬式にすら出ないだろう。兄とは仲が悪くはないが。はっきりいって他人の延長だ。お互いに兄弟だと認識はしても思っていない。友人は泣く奴は二人くらいか。まぁ、すぐに忘れるさ。


「むしろ死に方としては苦しまなかったから最高かな」


「若いですよね。先々良いことが沢山待ち受けてるかもしれないんですよ」 


 納得がいかないのかまだ食い下がってくる。正直この態度のほうがいらっとくる。


「なにもない。この先生きていても生きていて良かったって思えることは何もない」


「たかが20年も生きてこないのに何をわかってるんですか?」


 さっきまで低姿勢だったのにちょっとうざいな。一応美少女には優しいのが俺の数少ない取り柄なんだけど。さすがにきれそうだ。


「いきなりあった奴に何がわかるんだ?ずっと惨めだった。全てにおいて他人より劣っている事を自覚しながらも、否定するのが」


 いつだって、他人より優れた所なんて一つもなかった。運動ができるわけでもない。勉強ができるわけでもない。手先だって超がつく程不器用。気が利く訳でもない。注意力が散漫ですぐに物をなくす。人としての底辺。そんな人間の行き先なんてニートとかホームレスだろう。ずっと、死にたかった。恐怖もなく痛みもなく死ねるならどんなに幸せだろう。それが叶ったんだ。


「世の中にはあなた以上に苦しい人が・・・・」


 わかってる。五体満足だし。何処か障害認定を受けてる訳でもない。だからこそ辛いんだ。精神に欠陥でもあれば仕方ないって諦められる。でも、自分から認めるには最後のプライドが邪魔する。


「もう、いいだろう。俺は納得してるんだ」


「私は納得がいかないんです。どうしても苦しくて死んだ人間も運びました。でも・・・・でも・・・・・」


 なんでなきかけてるんだよ。泣くのは反則だろう。こっちが悪い気がしてくる。


「あぁ、もうどうしようもないんだから仕方ないじゃないか。俺があんたの言葉で改心しようとも。どうやっても生き返られないんだろう?」


「なら、抜け道があると言ったらどうしますか?」









 たった一つだけ抜け道がある。正直私だけじゃどうにもならないし。今回の失敗も含め私自身ただではすまない。


「私の役目は二つです。リストにのった者の魂を刈り取る事と。死者の魂を運ぶこと。しかし、運ぶ先はあの世だけではありません。別の世界へも魂を運ぶことができます。そして、この世界でなければ私の死の呪いは打ち消されます」


 もっとも異世界に運ぶことなんてやったことがありませんが。


「今、流行りの異世界転生ってやつか・・・・・無駄だよ。さっきも言った通り無能だ。どんな異世界かわからないけど。それでも今の日本は平和でいい国だ。ここで駄目なら異世界でも例え真面目に頑張っても1ヶ月もたずに死ぬ」


「では、他人より優劣な才能があったら?並大抵の才能ではありません。神が直接やどす才能」


「・・・・・・」


 少し迷うそぶりを見せる。これでも迷うとはどれだけ弱気なのでしょうか。


「代償はなんだ?」


「いりませんよ。一応、殺してしまった誠意のつもりもありますが・・・一番の理由はむかつくからですかね」


 自分は死神だ。だからこそ誰よりも死を見てきた。だから、生の大切さをだれよりもよく知っているつもりだ。だから許せない。大した理由もなく死んでよかったという人間が。それに・・・


「惨めと言っていたあなたは本当は劣等感感じることなく生きたかったんじゃないんですか?」


 まぁ、普通なら努力するものなのですが。


「どんな才能がもらえるんだ」


「正直に言って知りません。私は人に才能をもたらすことはできませんから。ただ、私も神の端くれなので異世界の神々に少しは知り合いがいます。中には暇を弄びながら桁外れの力を持った神様も」


 正直二度と会いたくありませんでしたがね。代償に何を要求されることやら。それに面白いことが何よりも好きな奴ですから。何かちょっかいも出してくるでしょう。まぁ、そこは本人の頑張り次第ということで。



「先ほども言いましたが。その神様に頼めば間違いなく強大なスキルが手に入ります。もちろん、それだけでうまくいくほど甘くはないかもしれませんが。しかし、才能は確実にあるとはっきりすれば違う生き方もできるのではないですか?」


「正直信じらないって思いがある。うますぎだろ」


 なるほど、裏があるとおもわれましたか。まぁ、確かに破格の条件です。もう、重大な失敗しちゃったのでやけくそ気分なのも否定しません。


「今からあなたには二つの道があります。そのままあの世に行く。地獄行きです。なんたって怠惰は大罪に数えられる罪ですから。もう一つは騙されたと思って異世界に行ってみる。少なくてもいい夢は見られるのじゃないですか?」


「地獄はいきたくはないな」


「では、あなたに今度こそ人生を謳歌する素敵な生を願って」


「死神に素敵な生とか・・・・ご利益なさそう」


「何を言っているのですか。ご利益ありますよ。あったら、信仰してください。三食お供え物をお願いします」


 減給されてしばらく食えない生活になる可能性が高いので。割と切実なる願いです。


「じゃあ、上手くいった信者になるよ」


「そういえば、私あなたの名前聞いていませんでしたね」


「あぁ、そういえばそうだね。加藤雄二。死んでから名乗るのも変だけど宜しく」


「では、短い間だとは思いますがよろしくお願いしますね雄二さん」


 そういって私は雄二さんの手を握り返すのだった。


四話まではすぐに更新しますよ。

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