8
それから私は、時間が許す限り図書館のおはなし会に参加した。
シールは八つたまっていた。
あの眼鏡のおはなしおばちゃん、村崎さんにも顔を覚えてもらって、学校のことなどをお喋りするようになった。
けれども最初の”彼”とは、一度も会えていない。
土曜日におはなしに来るのは、もっぱら村崎さんが多いことを知った。時々、違うおばちゃんたちがおはなしをしに来ることもある。
水曜日は”彼”が担当なのかなと思っていたが、あれからまだ姿を見ない。代わりに土曜日にも顔を見せる村崎さんとは違うおばちゃんたちがやってくる。
”彼”の名前は何と言うのか、歳はいくつなのか。聞きたいことがたくさんある。
最初は軽く興味を持っただけだったけれど、こうも会えないとなると私の中で意地になってきているような気がする。
名前くらいなら村崎さんに訊ねることもできるような気がした。司書の樋口さんにだったらもっと確実だろう。だけど私は変に勘繰られたくなくて言い出せなかった。
”彼”のストーリーテリングがもう一度聴きたい。ただそれだけだから。
「でね、村崎さん」
「ん?」
子どもたちの帰ったあと、おはなし室には私と村崎さんの二人だけだった。
村崎さんは、最初のうちは私の世間話にすこしだけ付き合ったあと、うまい具合に私を部屋から追い出していた。残って何かをする必要があるらしく、私も素直に追い出された。
しかし、私はおはなし会のたびに残り、さっき聴いたおはなしの感想や、これまでに似たおはなしを聴いたことがあること、果ては学校の先生や課題、友達の話までしゃべりたおした。
迷惑なのかな、と心配が脳裏をかすめることもあったが、親でもなく先生でもない大人が話に耳を傾けてくれるのが嬉しかった。私のお喋りが止まらないのを知ると、
「おばちゃんも今日はあんまり時間ないから、書き物しながらでもいい?」
頷くと、村崎さんは耳だけこっちに向けて、ノートに何やら書き始めた。