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土曜日の午後2時50分。私はまた図書館を訪れていた。
目的はあの男の人……じゃなくて、おはなし会。
プレゼントが何なのかも気になる。
『ご来館の皆さまにお知らせ致します。本日十五時からおはなしの部屋でおはなし会を行います……』
水曜日も聴いた館内アナウンスが流れた。
土曜日は小さな子どもが多く目についた。絵本をたくさん載せた館内カートを押すお父さんの隣に赤ちゃんを抱っこしたお母さん。そしてそのお母さんの前を擬人化された機関車の絵本を抱えた三歳くらいの幼児さんがちょこちょことおはなしの部屋に向かって歩く。同じような親子がゆるゆるとしたスピードで集まりはじめている。
そしてやっぱり高校生は私ひとりのようだ。高校生どころか、中学生はもちろん、小学生も高学年らしき子は今日はいない。
子どもたちに交じって児童室へいそいそと向かうことが何だか恥ずかしくなってきた。前にあの人が高校生がおはなし会に来ても恥ずかしくないって言ってくれたけど、この場違い感はいたたまれない。
でも、あの部屋に行けば、あの男の人はまた柔らかい笑顔で迎えてくれるだろうか。暖かいオレンジ色のライトを浴びて優しいテノールで「まこちゃん、よく来たね。待ってたよ」って両手を広げて言ってくれるだろうか。
「ていうか、名前覚えてないよね」
何十人も来る子どもたちの名前を覚えているわけがない。
「っていうか、まこちゃんって何よ、あー恥ずかしい。今の妄想ナシナシ!」
頭を振って妄想を追い出していると、手をきゅっと握られた。
目線を下げると、水曜日に膝に座ってきた女の子が手を繋いでいた。
確か、あの人はうたこちゃんと呼んでいたっけ。
「うたこちゃん……?」
うたこちゃんはにこっと笑う。ふっくらした頬っぺたが盛り上がる。うたこちゃんは手を引き、おはなし室へと誘導するように歩きだした。
「うたこちゃんはひとり?」
見た目年齢は四歳くらいだろうか。おうちの人と来ていないわけがないのに、その姿が見えない。
うたこちゃんは「んーん」と首を横に振った。おかっぱ頭の艶やかな髪がぱっと広がる。
「お母さんと入った方が良くない?」
今日は小さな子どももおはなし会に参加する日なのだろう。子どもと一緒に大人もあの部屋に入っている。
水曜日にはなかった扉が開いていて、大人でも楽に入室できるようになっていた。
「ばぁば」
「おばあちゃん?」
ぐるりと見回してみたけれど、うたこちゃんのおばあちゃんらしき人がどの人なのかわからなかった。そうしている間にもうたこちゃんは靴を脱いで揃え、木製の靴棚に靴を入れた。
水曜日のときもうたこちゃんは、ひとりで入室していたことから、きっとひとりでおはなしの部屋に入ることに慣れているのだろう。
「それではお願いしまーす」
元気な図書館司書さんの掛け声と共におはなしの部屋の扉が閉まった。