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「え……?」
「他に好きな人ができたんだ。別れよう」
あまりのショックに思考が停止した。
高校生になったら彼氏を作るんだ。
中学までは地味な見た目の文学少女だった私は、傍目で見ていた派手め集団の楽しげな話題にひそかに憧れていた。
そして同じ中学から進学する同級生が少ないこともあって、高校デビューに向けて準備した。
まずは眼鏡からコンタクトに変えた。
目が乾いて痛いのは我慢した。
髪は茶色く染めて、もて髪になるように毎朝早起きしてコテをあててた。
おかげで入学後、先生には注意されまくりだ。
ダイエットして、制服のスカート短くして、爪も磨いて、化粧して。それまで読みもしなかったファッション雑誌を買い漁り、研究した。
そして、望み通りにクラスメイトの男子に告られて、人生初の告白に浮かれて即オッケーした。
手を繋いで下校して、公園で遅くまで喋った。
時々何を言ってるのか分からない話題もあったけど、呆れられたくなくて頷いた。
日曜にはデートであちこち遊びに行った。
カラオケボックスもボウリングも初めてだった。
キスされそうになって、とっさに逃げた。
恥ずかしかったからだと思う。次こそは絶対する。
せっかくできた彼氏と付き合い始めたのに。
好きな人ができたってなんだそれ。
彼は、いや、今になっては元彼は、言いにくそうに言葉を続けた。
「だってお前、俺のこと本当は好きじゃないだろ」
「え、でも」
好きになる努力はしたつもりなのに。
「そりゃ、付き合ってくれって言ったのは俺からだけど、全然楽しそうじゃないっていうか、俺と付き合うの無理してただろ?」
「そ、そんなことない」
と思う。たぶん。
「いいよ、無理しなくて。そういうわけだから、じゃ」
「あっ……」
元彼は後ろを振り返りもせず、立ち去った。
茶色く枯れた桜の葉がひらりと舞い、無人の寂しいプールの水面に落ちた。
とぼとぼと歩き、数ヶ月ぶりに私はひとりで下校したのだった。
そういえば、あんなに通っていた図書館に行かなくなって、どのくらいたっただろう。