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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
98/133

[98]

 間違いなく目の前にいるのは、エマ・ウィンターズだった。



 相棒である筈の篠塚夏彦を伴わず一人で現れたエマ。

 その彼女もまたまっすぐにさやかの事を見つめていた。

 バラクラバで顔を覆っていても自分が誰なのかを彼女は、もう分かっているのだろう。

 さやかは、戦闘帽(ヘルメット)のバイザーを上げると、顔を覆っていたバラクラバをそっと下ろした。



「誉先輩……」


「ウィンターズさん……」



 こんな時でも、エマの声は変わらなかった。

 控え目ながらも凛としていてほのかな温かみを帯びたエマの声。

 その声が自分の名前を呼んでいた。

 ほんの数日前、ウサギを一緒に抱いて微笑み合い、心を交わした事が遠い昔のことのように思える。

 でも、そのほんの数日の間で、二人の関係はこんなにも変わってしまったのだ。

 込み上げて来る感情を懸命に押し殺してさやかは、規定通りに彼女へ問い掛けた。



「投降して、ウィンターズさん。今、投降してくれれば危害を加えないで済むわ」


「………………」


「ウィンターズさん……」



 無言のエマにさやかは、重ねて問い掛けた。

 エマは、目を閉じて俯いたが、一呼吸置いてすぐに顔を上げ、静かに言った。



「あなたなら、そう言われて投降しますか――」



 ――さやか先輩?



「え?」


「あなたの事を……さやか先輩って呼んでみたかった……」



 と、エマがゆっくりと身構えた。

 さやかも半歩右足を引き、そっと身構える。



「投降する気は、無いってことね? エマ……」


「…………さやか先輩」


「もう……遅い……よ。私もエマも……」


「生まれて来る時代を……間違えちゃいましたね、私達……」


「うん……。そうだね……」


「戦前なら……私達……」


「うん……名前で呼び合って……一緒にご飯食べたり、遊んだり……普通の高校生でいられたのかもね」


「さやか先輩……でも、一回だけだけど……一緒に……一緒にお昼食べたじゃないですか……」


「そうだね……」



 見つめ合う二人の瞳から涙が一筋頬を伝った。



「でも、私、後悔はしてません。私は私なりに今まで十分にしあわせでしたから」


「…………」


「私には――」



 夏彦と夏音ちゃん、それにみんながいてくれたから!



 そう叫ぶと同時にエマがその能力を開放した。

 先ほどとは、比べ物にはならない大出力。

 迫りくる閃光が、全てを凪ぎ払っていく。


(くっ!)


 さやかは、すかさず『絶対防護アブソリュート・プロテクション』を展開。

 と、同時に――

 迷うことなく一足飛びに跳躍した。

 だが、まさにその一瞬の後、

 

 かっ!


 と、拳が噛みあう音がして、二人は互いにすれ違い、再び間合いを測った。

 彼女が前に飛び込んだのと同じようにエマもまた前に、さやかに向って突進していたのだ。

 さやかの額から汗が一筋滑り落ちる。

 なるほど、一般部隊よりも強力な装備を持ち、練度も高い特務小隊が成す術も無く破れ去った筈である。迷うことなく前に出ようとするその発想は、彼女が並みの戦術生体兵器では無い事のあらわれだ。

 さやかは、再び身構えながら脳裏を過ぎった不安に密かに身震いする。


(ウィンターズさんは……エマは――)


 資料で見ていたよりも、

 情報部が精緻な分析で解析したシュミレーションで予想したよりも、



(――強い!)


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