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柱の陰に身を落とすと、さやかは呼吸を整え、辺りの気配を窺った。
静まりかえった館内に聞こえるのは、自身の呼吸の音のみ。
全身の装備を今一度確認しつつ、さやかは、現状を確認した。
壁の表示と網膜投影式ブラウザに表示された戦況図を見て、自分が今いるところが間違いなく目標地点である第三ブロックである事を確認し、さらに自分を援護してくれる手筈になっている第四特務小隊の配置を確認。
最後に戦闘指揮所に呼び掛け通信状態を確認する。
(うん。全部予定通り……。で、)
ここで、三十秒数えてから――
さやかは、全神経を研ぎ澄まし精神を集中させる。
喉元まで下ろしていたバラクラバを鼻の上まで引き上げ、漆黒色の戦闘帽の前面を覆う防弾ガラス製のバイザーを引き下ろす。
ガチッ、と小気味のいい音がしてバイザーのロックが掛かり、戦闘準備が完了した。
そして――
さやかは、音も無く柱の陰から飛び出すと壁沿いに慎重に目標へ接近して行く。
そこへ、彼女の後を追うように戦闘指揮所のオペレーターからの通信が入る。
『目標まで四十メートル……三十メートル……敵も気が付いたようです。警戒して下さ――』
と、辺りが閃光に包まれた。
さやかは、一足飛びに後ろへ下がると――
「絶対防護!」
能力を展開し、前面の敵を確認する。
相手の攻撃は、まだ到って控え目だ。
情報部の資料で確認した威力は、こんな物では無かった。
さやかは、能力を展開したままゆっくりと前進する。
網膜投影式ブラウザと全身に埋め込まれた人工感覚神経の能力をフルに引き上げる。
研ぎ澄まされた一本の針のように、さやかは、全身を使って目の前の敵を捉えようとする。
(見えた……)
国防色一色の戦闘服に防弾装甲を各所に仕込んだ同色のタクティカルベスト。
そして、やはり同色の手足を守る抗刃抗弾防具。
戦闘帽に付けられた小隊マークは、「E」。
その時、件のその人物と目が合った。
澄みきった青い瞳。
戦闘帽の廂からわずかに覘く黄金色の髪と大人びていながらもどことなく愛らしさを感じさせるその風貌。
(どうして……)
さやかは、目の前の人物の顔を見つめながらバラクラバの中で呻くようにして呟いた。




