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「襲撃者の位置は?」
「第三ブロック付近かと思われます。先ほど、第四特務小隊を向わせました」
「こちらの損害は?」
「屋外を守っていた第二特務小隊が全滅した模様。援護に向った第六特務小隊とも通信途絶」
「応援は?」
「手持ちのすべての部隊に緊急集合を掛けています。十五分後には、残りの三個小隊も出せます。なお、中央軍事学院生徒隊の全部隊にも緊急集合令が出ています」
「緊急集合令のレベルは?」
「デフコン・ワンです」
「オプションは……?」
「ブラヴォーです」
さやかは、戦闘服の上から装具を身に着けつつ、隣を歩く特務小隊指揮官の報告に喉の奥で密かに呻いた。
(中等部を含めた全生徒に召集が掛かってる……。しかも、第一級戦術生体兵器の全力出撃の許可も出てるなんて……)
それも、中等部を含めた全戦力の。
さやかは、足を止め傍らの特務小隊指揮官に言った。
「第四特務小隊には、正面からの攻撃は控えるよう伝えて下さい。『精霊女王』は、私が相手します」
はっ! と挙手の礼をして指揮官は、小走りに掛けて行った。
その後ろ姿を見つめつつさやかは、網膜投影式ブラウザの通信ブラウザを開いた。
相手は、コーガン警備部長。
朝の五時にもかかわらず、三コール程で背広姿のコーガン警備部長がブラウザに映し出された。
と、思った瞬間、ブラウザが切り替わり現れたのは、極東方面本部長、パシフィック・サーバントの事実上の最高責任者マクドウェルだった。
「マクドウェル本部長……。あの――」
「分かっている、中等部を含めた生徒隊の招集の事だろう? だが、いいかね? 我々に失敗する事は許されない。『さくら』のプロジェクトには、社の命運が掛かっている。世界には、星の数ほど民間軍事会社があるが、戦略生体兵器を持っている民間軍事会社は、現状我々のみ。それがどういう意味を持つか君にも分かるだろう? 戦術生体兵器とは、比較にならない価値が彼女にはある。どれほどの犠牲を出しても構わない。なんとしても『さくら』を守り通してほしい」
「ですが、これは!」
「要は――」
とマクドウェルは、声を荒げたさやかを遮るようにその目を光らせ、声を落とした。
「君が、自分の仕事をきちんとする事だ。君が『精霊女王』を止められなければ、今現在、彼女の相手を出来る者は中等部の第一級戦術生体兵器だけだ。しかも、それとて勝てるか分からないのに他の戦術生体兵器や機械化人間兵器、そして一般人の生徒や特務部隊に何が出来ると言うのかね? 現に――」
――特務部隊二個小隊、約百人の兵を失っている。
そこで、一端言葉を切り、マクドウェルは「違うかね?」とさやかに尋ねた。
否、尋ねたのではない。
返事は? と聞いているのである。
さやかの意見など端から尋ねてなどいないのだ。
(これは、一種の強迫……ウィンターズさんと他の人達のどちらかを選べと言うことなの? 私とウィンターズさんの関係をこの人は知っているって事なのね)
選べる筈が無い。
さやかは、生徒を統べ、指揮し、その命を預かる生徒隊長なのだ。
むざむざ部下を死なせる危険のある選択を望む筈がない。
特に、さやかの性格がそうである事を生徒隊長の選抜責任者の一人である極東方面本部長の立場にいる彼が知らない筈がない。
さやかは、奥歯を食いしばり、姿勢を正した。
そこに居るのは、中央軍事学院生徒隊長である誉さやか。
――命令に忠実な部隊指揮官、そして最強の機械化人間兵器である一人の兵士だった。
「了解致しました。これより『精霊女王』の制圧に向います」
最敬礼でそう応えた。
良い結果を期待している、とマクドウェルは、満足げに頷くと向うから通信を切った。
(………………)
どうしようの無い事だってある。
人には、それぞれ生き方があるのだから。
誰しもが、託された何かを背負って生きているのだから。
自身の信じた想いがあるのだから。
(…………うん。私は、生徒隊長なんだもんね……)
目尻をそっと指で拭い、さやかは歩き出す。
と、新たな通信が入った旨のメッセージが網膜投影式ブラウザに映し出された。
さやかは、第三ブロックに早足で向いつつ、櫻子の部屋の通信端末からの呼び出しに応えるべく再び通信ブラウザを開いた。




