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「そうね」
「そうだね」
それで――とエマは言葉を続けた。
「次の年は、今度は夏彦の方から誘ってくれたわ。また、自分の疎開先の北海道に来ないか、って。その年の夏も私は、家族と互いの休暇の日程が合わなくて、その上なんの予定も無かったし、それに夏音ちゃんにも逢いたかったから……」
「夏彦くんの事も大好きだったし?」
「もう、夏音ちゃん! からかわないで。まあ、確かに夏彦と組む事が多くなって夏彦の人となりは前より随分分かるようになってたし、それに連れて仲も良くもなって……って、それはそれとして――とにかく! 私は、夏彦の誘いを二つ返事でオーケーしたわ」
「夏音さんとエマさん、二人だけの時も楽しかったけど――」
「三人になるともっと楽しかったわね」
「三人で浴衣着てお祭りに行って――」
「川で溺れ……ごほん! 泳いで――」
「ふふふ……エマさんたら。で、みんなで叔父さんの畑仕事を手伝って――」
「戻る日の前の夜は、みんなで花火をしたわね」
「そうだね。すごく楽しかったよね」
「ええ。すごく楽しかったわ」
「エマさんが冗談を言ってはしゃいで――」
「夏彦と夏音ちゃんがお腹を抱えて笑い転げて――」
そこでエマがそっと目尻を指で拭った。
「でも……最後の日が辛かったわね」
「うん……。夏音さんが、ダダこねちゃったから……」
「いいえ、私だって心の中では、ダダをこねていたわ。夏音ちゃんと夏彦の三人でもっとずっと一緒に居たい、って。あの時が、初めてだったわね――家族以外で、別れるのがこんなに辛かったのは……」
「でも、夏音さんは二人の前では、泣かなかったよ」
「あら、バスに乗る時までは、私もなんとか泣かなかったわ」
「え? じゃあ……泣いたのは?」




