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「Tシャッツにキュロットスカート姿のその女の子は、私に言ったわ。
『あのう……夏彦くんを知りませんか?』
って。
それで、私は気が付いたの。
ああ、そうだった……。あの、私にとんでも無い事をした男の子、篠塚夏彦には、妹がいたんだった……って。
園田大尉が、夏彦と話しているのを横でたまたま聞いて居て知ってたのよ。
その時の夏彦の嬉しそうな顔を見て、夏彦が妹をとても大事にしてるんだなって言うのは、分かってたから。
私のお尻に指を突き立てた男の子の妹。
あの時の私は、目の前の女の子が夏彦の妹と分かって少し意地になっていたのね。
でも、今から思えば……あの時の私は、もう夏彦の事をどこか好きになっていたのかもしれないわ。じゃなきゃ、そんな態度取るなんておかしいものね。
で、それは、ともかく――その時の私は、目の前の女の子を無視した。
そしたら、目の前の子は、また話しかけてきた。
『篠塚夏彦くんって言うんです。こんな髪型で……こーんな目で……やさしくて……すんごくカッコイイの! 知りません?』
誰の事なの……それは?
私が知っているのは、私のお尻に指を突き立てて、みんなに怒られて小さくなっていた男の子――篠塚夏彦一等兵。
電磁軍刀を引きずって歩くロクデナシよ!
と、言ってやりたかったんだけど……目の前の女の子は、とても一途な目で私を見つめていたわ。
それはもう、切なくなってしまうくらいに。
まったくもう……どんだけ、お兄ちゃん好きな子なのよ!
しょうがないから、私は、それも無視した。
そして、もう話しかけて来ないで、とばかりに音楽プレーヤーのイヤホンを耳に入れてそっぽを向いたわ。
でもね――
そしたら、その子は私の隣に腰を下ろして言ったの。
『夏彦くんが帰って来なかったら、夏音さん、また一人ぼっちだよ。ねえ、お姉さんと一緒にいてもいい? もしかしたら、また飛行機来るかも知れないし……』
『…………』
『ねーえ。お姉さん?』
『…………』
『……ええと、エ……マ……ウィンターズ?』
『ちょっと!』
『はわわわーん! ご、ごめんなさい。お姉さんのお名前が胸に書いてあったから。あのね、夏音さんはね……』
『篠塚夏音』
私が溜まりかねて言うと目の前の女の子、当時の夏音ちゃんは、飛び上がって、きょとんとした表情を浮かべていたわ。私は、少し得意になって仕返しとばかりにさらに言ったわ。
『篠塚夏彦の妹でしょ? それに、飛行機は、またあとでもう一便来るけど篠塚夏彦は、乗っていないわ』
『え?』
『私が、間違って篠塚夏彦のチケットを使ってここに来てしまったから。だから、いくらここで待っていても篠塚夏彦は来ないわ』




