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………………。
きょとんとした表情を浮かべて互いを見つめる二人。
だが、しばし呆気に取られたかのように黙り込んだ後に二人は言った。
「それは、そうね。だって、夏音ちゃんは――」
「エマさんは――」
「お二人は?」
ごくりと喉を鳴らして、目を輝かせるほのかにエマが恥ずかしそうに俯き、夏音も微かにその両頬を赤らめた。
そんな二人に対して「焦らさないでくださいよ~」とばかりに身を乗り出すほのかに夏音が続きを言った。
「夏彦くんを好きになる前に、夏音さんと友達になったからだよ。それに、夏音さんも……」
「ええ。夏音ちゃんも私もお互いに人生で初めて出来た同性の友達だったから……かしらね?」
「初めての……?」
「そう、初めてのね」
そう言って、愛おしげに目を細めたエマに夏音も恥ずかしそうにそっと目を伏せた。
二人の表情に浮かぶ互いに対する想いの深さに、ほのかは、改めて驚くと同時に
「よかったら話してくれませんか? お二人のこれまでの事」
と気が着いた時には、口にしていた。
ちょっと不躾だし、気を悪くしたかも……と思わない事も無い。
でも、どうしても知りたかったのだ。
今やとても他人事とは思えない仲になったこの二人の事が。
大好きなこの二人の事が。
ほのかの言葉に逡巡するように夏音がエマの方を窺った。
が、エマの方は、もうすでに腹が決まっていたようだ。
「いいわ。でも、どこから話した物かしら……?」
「それは、あれだよ。あの夏の事からでしょ。エマさんが、初めて北海道に来た――」
「ああ、そうね。チケットを取り違えて――」
偶然、私たちが出会う事になったあの夏の日ね――。
「そこが、夏音さんとエマさん、それに夏彦くんの三人の出発点だもん」
「じゃあ、私から話し始めるわ。足りない部分や、間違ってる部分は、夏音ちゃんフォローしてくれる?」
「オッケー!」
それじゃあ――
と、エマが息を吸い込んだ。
男子二人の寝息をBGMに、エマは静かに語り始める。
それは、今から五年前。
第三次世界大戦まっただ中の八月のある日の事。
そして、その日に到るまでのエマの軌跡だった。




