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…………。
「へっ?」
「夏音さんは、夏彦くんの本当の妹じゃないんだよ」
「じゃ、じゃあ、お、お嫁さんには……」
「そうね、当然結婚もできるし、子供だって作れるわ。もっとも、私は、夏彦を夏音ちゃんに渡すつもりは無いけどね」
「それは、夏音さんだって一緒だよ! エマさんに勝って正式に夏彦くんのお嫁さんになるんだからねっ!!」
「ふっふっふっ……」
「ふっふっふっ……」
「………………」
寝袋に包まったままという幾分冴えない姿で不敵な笑みを交換する二人の少女。その横顔を眺めながら、ほのかは事態を整理する。
(エマ先輩は、夏彦先輩が好き……夏音ちゃんも夏彦先輩が好き……)
で――夏音ちゃんは、夏彦先輩の妹では無い。
「ええええええええぇぇぇぇぇ!」
素っ頓狂な声を上げたほのかの口を、エマと夏音が咄嗟に手で押さえた。
(じゃあ、夏彦先輩は、かわいい女の子と一緒にふたり暮らししてるっていうだけのラブコメによくいるパターンの人じゃないですか!)
(そうよ。夏音ちゃんが、本懐を遂げないように――じゃなくて、その情操を守るためにもお目付け役として私も一緒に暮らしたいんだけど、家族がね……)
(いえいえ、そういう事を言ってるんじゃなくて……)
(夏音さんと夏彦くんは、ラブラブだよっ! 邪魔する人は、許さないんだからねっ!)
(夏音ちゃん!)
(エマさん!)
がるるるるぅぅぅぅ……。
と、再び声を殺して牙を向き合う二人。
仲が良いのか悪いのか……コト夏彦に関する限りは、その埒外であるらしい。
が――。
と、ほのかは、目の前の二人を見つめて思う。
ほのかの脳裏を過ぎるのは、出会ってまだ短いながらも、この二人とともに重ねて来た濃密な時間の事。一緒に戦い、一緒に食事し、一緒に眠り、さくらを救う方法を共に考え、時には一緒に涙を流し、折れそうになる心を励ましたり励まされたり。
不思議なほどに充実した時間だった。
やっている事は、決して普通では無いけれど、誰よりもどの場所よりも、暖かで居心地のいい日常がそこにはあった。
そして、その度に感じたのは、この目の前の二人の不思議な絆だった。
夏彦との間にそれぞれある絆とも違う強固な関係。
この二人の関係は、どうして生まれたのだろう。
ほのかは、睨みあう二人へと寝袋に包まったまま芋虫のようにそっと近づいて行く。
夏音ちゃん、まだまだ甘いわね。マーマレードのように甘いわ。
えーん。エマさんのバカ! がおー!
(まだやってる……)
クスリと頬笑みながらほのかは、声を掛けて二人の間に割って入った。
そして、突然の闖入者にその両の瞳をパチクリとさせている二人の耳元にそっと囁いたのだった。
「お二人は、本当になかよしですね」




