表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
80/133

[80]

 

 慌てて謝るさやかにさくらは、うううんと首を振った。

 そして、そっとマンドリンを指差した。



「うん? さくらちゃんも弾く?」


「…………」



 さくらは、首を左右に振ってもどかしそうに再びマンドリンを指差し、それでも首を捻っているさやかを見ると



「…………!」



 とジェスチャーでその意思を伝えようとする。

 何かを抱えて手で掻き鳴らしているようなその仕草に「あ、そうかっ!」と、さやかもやっと合点がいった。


(……無意識の内に私ったら曲弾いてたんだね)



「今の曲、もう一度、弾いて欲しいの?」



 うんうんと大きく頷くさくらにさやかは、にっこりと頷いた。


(さくらちゃんのリクエストなら頑張るよ、私!)


 よし……。

 さやかは、足を組むとマンドリンを抱え直し、すぅ、と息を大きく吸い込んだ。

 そして――

 ゆっくりと弾き始めた。

 ゆっくりと、なめらかに。

 弦を一音一音丁寧に弾き、情感豊かなそのメロディーを紡いでいく。

 高く澄んだ音の織りなすハーモニーが、そっと二人を包み込む。

 さやかは、曲を奏で続けた。

 脳裏を過ぎるのは姉の弾くマンドリンを初めて聞いた夜の事。

 姉と過ごした暖かな日々の事。

 いくつもの思い出が次々に蘇っては消え、また蘇り、飽く事を知らない。

 さやかの指は、弛むことなく最後まで弦の上の物語を描き続ける。

 五分ほどの後――。

 暖かな余韻を残してさやかの演奏は終わった。

 さやかは、そっとマンドリンを下ろすと


(ダメだな……。自分で弾いてても、胸がいっぱいになってきちゃう……)


 そっと目尻を指で拭い



「どう……だったかな?」



 と遠慮がちに尋ねた。

 さくらは、さやかの顔を見つめたまま凍りついたように身じろぎひとつしなかった。


(あれ? もしかして……まずかった?)


 つい、その場の雰囲気に呑まれて、特に、さくらが自分の意思を初めて明確に示してくれた事に嬉しくなって、さやかはマンドリンを弾いてしまったのだが……。

 それ以外にさやかに他意は無かった。

 ただ……何もなかったかと言えばそうでは無い。


 想った事はあった。


 もっともそれは、伝えたいというよりは一人言に近い、実際には伝えるべきではない事。

 そう、それは、許されない想いかもしれないけれど、

 その内容が自分勝手と分かっているけれど、

 さくらが知る必要などこれっぽっちもないけれど、

 でも、マンドリンを奏でながら想ってしまった。


(私も、さくらちゃんが好きな『園田大尉』の事を、お姉ちゃんの事を愛しているんだよ。あなた達に負けないくらい大好きで――)



 あなた達と同じように……お姉ちゃんが死んでしまって悲しかったんだよ。


 

 だが、さやかは自身のそんな想いを胸の隅に押し込みカギを掛ける。

 さくらにとってそんな事は、どうだっていい筈だし、知りたくもないだろう。

 さやかは、自身を見つめ続けるさくらの瞳を見つめながらそう思った。

 さくらは、なおもさやかの顔を見つめ続けていたが、その瞳は、ゆっくりとそれまでの感情の色の薄いものから濃いものへと変化していた。

 明らかに、さくらの様子が変わった。

 と、思った時だった。

 さくらは、ゆっくりと自身の首の後ろに手を伸ばして何かを外すと、それを床に、ぽとん、と落とした。


声帯制動帯(ヴォイス・ストッパー)?)



 まさか――!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=723477946&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ