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機械化召使に淹れてもらったココアをすすりつつ、ぽつりぽつりと光の灯るほぼ漆黒に近い東京エリアの夜景を見つめてさやかは、これまでの事を想った。
明後日――
いや、正確には、つい五分前に十二時を過ぎたので、明日と言う事になる。明日の丁度今頃さくらを乗せた護送車列が闇に紛れて新潟へと出発しているだろう。
その後の予定や、さくらがどうなるのかについては、さやかは知らされていない。
おそらく、任務完了と言う事で学校に復帰する事になる。
そして――
そして、いつも通りの日常が再び始まるだろう。
(………………)
釈然としなかった。
何か胸がもやもやとして気持ちが悪い。
いや――
自分の気持ちの出所は、もう分かっていた。
(さくらちゃん……)
囚われの身となった戦略生体兵器の少女。
(篠塚くん……)
その少女を救おうと身を焦がす少年とその仲間達。
(ウィンターズさん……)
その仲間の一人は、友達になれたかもしれない、一時的にとは言え心を交わした相手。
(………………)
そして、彼らが救おうとする少女を最初に守ったのは、一人の人物。
さやかの姉、誉あかりこと園田あかり大尉。
(……………………)
私、何してるんだろう?
胸の中の小さな自分が、さくらに対して同情し、さらに篠塚夏彦やその相棒であるエマ・ウィンターズやその仲間達にある種の共感を抱いているのは、隠しようの無い事実だった。
だが、それが許されない事である事もまた紛れも無い事実だった。
これは生徒隊長の任務であり、その道を進むと決めたのは、他でも無い自分自身。
それを放棄する事は、これまでの自分の努力を無にしてしまう行為であり、なによりこの道を進む事を応援してくれた人達の想いを無にする事にならないだろうか?
そもそも――
この道を進む事を応援してくれたのは、その扉を開いてくれたのは、姉である誉あかりなのだ。
任務を放棄する事は、生徒隊長としての職務を投げ出す事は、その姉の想いを無にする事に等しいのではないだろうか?
(私……どうすれば……)
夜空を見つめるさやかの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。




