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「呼び方?」
「はい。私、ウィンターズ先輩とか夏音さん、とかって割と硬い言い方で呼んでるじゃないですか? でも……でも、その、あの、これからは仲間なんですから……」
そう言ってもじもじと小さくなってしまったほのかにエマと夏音が顔を見合わせて微笑んだ。
「そうね。みんなの呼び方をもっとやわらかい物にした方が、連帯意識も高まるしなにより楽しいわね」
「ウィンターズ先輩……」
「いいえ、これからはエマ先輩よ。それに、夏彦先輩ね」
「はにゅん! 感激ですっ!! じゃあ、私の事は、ほのかって呼んで下さい」
「ははは。なら、おいらも名前で呼んでくれや。アレクセイでオーケーさね。おいらも、みんなを名前で呼ぶぜ」
「あ、じゃあ、じゃあ、夏音さんは――」
と、言いかけた夏音に、ほのかとアレクセイが顔を見合わせぽかんとした表情を浮かべた。
夏音さん……?
夏音さんったぁ……?
「ええ……。ああ、あの、その……」
被ったネコが剥がれ落ちてしまったらしい夏音にエマが、ぷっ、と吹き出した。
お嬢様学校でもある北洋女学院の中等部で生徒会長を務める夏音は、学校などの他人の前では当然ながら一人称は「わたし」なのだが、夏彦達の前では、打って変って「かおんさん」。
夏音が自身を指して「わたし」と言い出したら、それは彼女の『余所行き』の顔なのだ。
あわわ、と夏音が手を振りつつ慌てて弁明を試みる。
「あ、あ、夏音さん、昔から自分の事、名前に『さん』付けで呼んでて、小学生の頃に疎開先の学校で、みんなに『変だよ』って言われて気にしてたら、夏彦くんが『別にいいんじゃないか。かわいいよ』って言ってくれて、それで夏音さん、夏彦くんのお嫁さん――じゃ、無くて、無くて、無くて……わぁぁぁぁん、夏彦くぅぅぅぅん! フォローしてぇぇぇぇ!!」
(よくまあ、そんな昔の事覚えているもんだ……)
泣き付く夏音に内心少し感嘆しつつ、夏彦は彼女をテーブル越しに「よしよし」と宥めてやる。
そんな二人の様子にほのかとアレクセイは、声を合わせて笑った。
「なんか、安心しました。夏音さんって、話し方とかすごく上品でお行儀よかったから、私なんかと仲良くしてもらえるかな、って少し不安だったんです。全然変じゃないですよ。私は、好きです」
「いいんじゃねぇか。確かに、かわいいぜ」
「もぅ……」
二人の反応に真っ赤になって身を捩る夏音の頭をエマもそっと撫でてやる。
しばらくそうしていると、夏音は伏し目がちに皆の顔を見て、「ありがとう」と恥ずかしそうに言った。
「じゃあ、夏音ちゃんの呼び方は、『夏音ちゃん』でいいかしら?」
異議なし! と一同が頷いた。
が、
あ……でも――とほのかが、再び遠慮がちに小さく手を上げた。
「アレクセイさんってこの中で一番年上なんですよね? お名前に『さん』付けた方が……」
「いんにゃ、気にするこたぁねぇよ。夏彦を見ねぇ、端から呼び捨てだぜぇ。それに、おいらの妹だって――」
とアレクセイが言いかけた時だった。
ブーッ!
と誰かの携帯端末の呼び出し音が鳴り、通信用ブラウザが空中投影された。




