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打ちっぱなしのコンクリートの床の上にへたり込み夏彦は、荒い息を吐いた。
目の前に広がる戦術生体兵器用の屋内訓練場では、数体の訓練補助ユニットを背負った機械化召使が防御楯をボディの正面に据えて夏彦の指示を待っている。
時折、隣にいる他の機械化召使にこそこそと震えるような電子音を放っているのは、案外彼らも目の前の光景を怖いと思って見ているからなのかもしれない。
彼らの足下には、夏彦によってばらばらに斬り刻まれた斬撃標的用の金属樹脂製マネキンの手足が見るも無残に転がっており、確かになかなかシュールな光景が広がっている。
水際立った斬撃だった。
だが、現在の夏彦の調子は、本来の物には程遠い。
と言うのも――
「やっぱり無理そう? 夏彦」
「…………」
夏彦は、エマの言葉に力無く頷くと、鞘に納めた電磁軍刀を脇に放り出し仰向けにひっくりかえった。エマは、軍刀をそっと拾い上げると代わりに夏彦の手の中に高濃度ブドウ糖溶液のチューブを握らせてくれた。
顔を正面から照らす照明に目を細めつつ、夏彦は、高濃度ブドウ糖溶液のチューブのフタを噛みちぎる。頭は、痺れるように疲れていたが、体の方はまだそれほどでもない。
夏彦は、痺れた頭でぼんやり思う。
ついに、向き合う時が来てしまったのだ。
心を病んだ時から続いているこの状態に――。
(さくらためにも、俺自身のためにも……俺は――。だが……タイムリミットまでは、あと一日弱)
――五分休んだら再開だな。
チューブの中の高濃度ブドウ糖溶液を飲みながら、夏彦は昨日の夜の事、例の特別高等警察の本田直子が帰って行った後の事を思い返して、小さくため息を吐いた。




