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ソニック・ブレイド  作者: 生田英作
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[69]

 ちゃぷん。



(気持ちいい……)



 湯船に首まで浸かってさやかは、ほう、と大きく息を吐いた。

 湯船の四隅にあるライオンの彫像の口からは、こぽこぽと止めどなくお湯が溢れ出し、ガラス張りの壁面からは、見える景色こそあまりよくないものの、三十一階という高層階にあるだけあって旧船橋や旧市川と言った諸都市とその先の東京エリアが一望できる。


 ここは、役員区画の一画に設けられている戦略生体兵器『さくら』のための部屋。

 さやかは、最初にこの部屋の存在を聞かされた時には、てっきり、ベッド一つと椅子が一脚ある程度の独居房のような部屋を想像していたのだが、実際には、高級ホテルのスイートルームもかくやと言うべき豪華な部屋だった。

 部屋のメインとなるスペースは、クリーム色の色調で統一されたダイニングスペースと二十畳のリビング、そして中二階のベッドルーム。リビングには、最新の映像機器と音楽機器、そして豪華な家具類が備え付けられ、さらには、さくら専属の機械化召使(オート・サーバント)と言う事で、調理担当の機械化召使(オート・サーバント)と身の回りの世話をする機械化召使(オート・サーバント)が一体ずつ用意されている。


 だが、この部屋でさやかが、なによりも一番驚いたのは風呂だった。


 ダイニングスペースからドア一つで遮られたバスルーム。

 中は、湯船だけでも十畳はあろうかと言う広さに、さらにサウナとジャグジーが設けられており、しかも呆れた事にここにもマッサージなどのサービスを担当する機械化召使(オート・サーバント)が控えていたのだ。


 まさに、至れり尽くせり。


 中央軍事学院のフィットネスルームにあるサウナ付き共同浴場に感激していた自分が、心底悲しくなる広さと豪華さだ。実家の誉家が、金持ちの割に風呂に対して全くと言っていいほどこだわりの無い家だったために余計にそう感じるのかもしれない。

 広い湯船の中に『さくら』と対角線上に浸かりつつさやかは、幾分伏し目がちに彼女の様子を窺った。


(さくらちゃん……。朝ごはんは、食べてくれるかな……)


 さくらは、湯船の中でじっと俯いたまま身じろぎ一つしない。昨日の夜ここに来てからずっとこの調子で、彼女はさやかとは決して目を合わせようとはしなかった。そして、用意した夕食にもほとんど手を着けず、部屋の隅で膝を抱え込んだ状態で朝を迎えたのだった。


 そんな彼女の状態を心配したさやかが、無理に勧めて拝むようにして入ってもらっているのが、今のこの朝風呂なのである。


 湯船に浸かれば心身のリラックス効果も期待できるし、食欲だってもしかしたら湧くかもしれない、と思ったのだが……。さくらの気持ちを考えれば、これは当然無理強いでしかなく、それゆえに余計に嫌がられるだろうと言う事は、さやかも重々分かっていた。

 だが、彼女の健康を気遣い、無聊を慰める事は、同じ女性である自分にしか出来ない事であり、護衛と同じぐらい大事だ、とも思うのである。

 それに――

 さやかは、そっとため息を吐いた。

 作戦は、篠塚夏彦達からの奪還を目標とするフェイズⅠを完了して、フェイズⅡへと移行している。フェイズⅡ――それは、奪還を試みる篠塚夏彦達から『さくら』を守る事だ。


 コーガン警備部長から伝えられていた作戦計画によると一昨日の移送作戦を数日後に再度行う事になっており、それまでの数日間をさやかが付きっきりで彼女を護衛する事になっているのだ。確かに、現状でさやか以上の適任者はいないだろう。


 それに春ごろから行っていた学校への侵入者達の排除も先週末にほぼケリが着き、彼ら以外に特に警戒を要する勢力も現状では存在していない。

 先週末まで行っていた排除行動の最中こそ「この侵入者達は、何のために学校に侵入して来るのだろうか?」と訝しんでいたものだが、今となっては、連中も『さくら』目当てだった事が分かる。なんでも、連中は特別高等警察の戦術生体兵器達であったらしい。もっとも、この連中の再度の襲撃に関して、さやかはそれほど心配していない。連中は、情報部の分析によると第一級戦術生体兵器であったらしいのだが昨日戦った篠塚夏彦に比べれば、全く相手にならない程度の敵でしかなかったからだ。



 特高の戦術生体兵器など物の数では無いと言っていい。



 それに、あれで第一級戦術生体兵器と言う事は、それ以上の戦力の控えは、襲撃がまったく途絶えている現状から考えて、すでに無いと考えていいだろう。


(『蹴られた犬は、しばらく吠えない』って言う言葉もあるし……)



 ともあれ、さやかが、気になっているのはまったく別の事――学校の事なのだ。


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