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おそらくだけど――と、直子は、宙を睨んだ。
「転換手術を準備する時間、手術後のリハビリ……そう言った諸々の事を考えると、入学後すぐか……もしかしたら、入学前に話を着けていたかもしれない可能性もあると思う。もちろん、はっきりと断言は出来ないけど、現在の彼女の練度や確認出来ているメンテナンス部品の購入時期を逆算するとだいたい時期はそれぐらいだろう、っていうのが特高の見解」
「じゃあ、もう運用自体は、二年以上……」
「ええ。強かったでしょう、彼女? 特高の戦術生体兵器達が初めて彼女と戦ったのが二ヶ月ぐらい前だったけど……今日の篠塚くん達との戦闘を見た感じでは、さらに強くなっている感じだった。ますます練度が向上しているみたい」
「と言う事は……全身装具だけじゃなくて能力補正用の補助AIも全身に搭載している可能性があるってことですね? あれがあれば格闘術の練度を劇的に向上させられるし、脳から神経組織への命令伝達速度もかなり高速化出来ますから。それに……全身装具なら、主要な神経以外の抹消神経系も全て人工神経に置き換えてる筈ですしね」
「考えたくないけど……たぶんね」
直子は、そこまで言うと申し訳なさそうに夏彦を見つめて苦笑した。
夏彦にも、さくらを守ると言う目的があるので、別にさやかの能力について直子に謝ってもらう必要は無いのだが……確かに目の前に突き付けられた事実には、愕然とせざるを得ない。
(誉先輩は、実用化もまだロクにされていない一世代も二世代も先のハイテク兵器で全身を固めているのか……)
直子ではないが、確かに今の誉さやかは、『化け物』と言われてもしょうがないだろう。
だが――
さくらを、さくらの自由を取り戻すためには、なんとしても彼女を斃す必要がある。
否、もはや、誉さやかを斃す事が、さくらの自由とイコールになっていると言っても過言ではない。
最新鋭兵器である抗電磁パルス誘導弾や装甲バン、そして多数の戦術生体兵器と歴戦の隊員達を有する内務省特別高等警察特戦隊、通称『蒼きスペツナズ』。
他国の諜報組織や狂信的平和主義者等の反社会勢力から蛇蝎のごとく嫌われ、死神と恐れられる情報組織系最強の実力装置。
誉さやかは、その『蒼きスペツナズ』の主力である第一級戦術生体兵器を全滅させた上に、今や彼らに戦闘への介入を躊躇させる程にまでなっているのだ。
誉さやかさえ斃せれば――。
それは、彼女に破れ、そのプライドをへし折られた最精鋭特殊部隊の無念の慟哭であると同時に、つまりは、直子がこれまで夏彦達にした説明の結論なのである。
そう、まさに、誉さやかこそがパシフィック・サーバントの切り札なのだ。
だからこそ、かつて国防陸軍最強と謳われた第一級戦術生体兵器である夏彦に対して彼ら特別高等警察は、白羽の矢を立てたのだろう。
「篠塚くん――」
直子は、夏彦を正面から見つめて頭を下げた。
「これは、特別高等警察からの正式なお願いです。誉さやかを斃してください」




