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アレクセイの問いに夏彦とエマ、そしてほのかが、静かに頷いた。
「ほえー。そうなのかぇ。確かに、そりぁ、金には困らねぇわなぁ……。ちなみに、そいつは、なんだってぇそんな体なんだぇ?」
「誉生徒隊長……誉さやかさんは、八歳の頃に交通事故に遭って、ご両親と首から下の体の自由を失ったの。全身装具は、その際に埋設手術が行われたって話。なんでも、お母さんのお兄さんである誉恭一郎氏――後にさやかさんとそのお姉さんを引き取った人、つまり、さやかさん達の養父ね――が、さやかさんが体の自由を取り戻せるなら、いくらお金が掛かっても構わない、って言ってね」
「誉先輩の過去にそんな事が……」
「はにゅん……」
「御両親に体の自由……なんか、その隊長さんかわいそうですね」
直子の説明に女性陣が一様にうなだれた。確かに、同情するに余りある話ではある。
だが――夏彦は、自身の思考を纏めるように直子に問い掛けた。
「と言う事は、誉先輩の装具は、最初は医療用の『D』クラスだったって言う事ですよね。いつ頃、軍事用に転換されたんですか? それに、転換手術を行った連中……」
「あっ、そっか!」
「おっ? 今度は妹ちゃん?」
「エマさん! さっき、Iクラスの機械化人間兵器は、戦時中にアメリカで開発されたって言いましたよね?」
「ええ。軍の後援を受ける形でいくつかのアメリカの国内企業が――」
………………。
「「「あーっ!」」」
「なぁるほどな。要するにだ、その開発した連中てぇのは、パシフィック・サーバントだったってことかぇ。あの会社、二年前までアメリカのボストンだかに本社があったんだろ?」
「そう言う事。特高の戦術生体兵器達もあなた達ぐらい理解が早ければね……」
まあ、それは、ともかく――と直子は、付け加えた。
「なんでも開発費用が極めて莫大だったらしいの。はっきりとした金額は、分からないけど……当初予定されていた百億ドルの予算が開発完了後には、七百億ドル……当時のレートで約九兆円にもなってたって話よ」
「航空母艦四十隻分ですか!!」
「そっ。だから、お蔵入りする訳には、いかなかったんでしょうね。彼らは、ずっとこの技術を利用する機会を待っていた……。そこへ、ちょうどうまい具合に、全身に装具を入れている稀有な存在である誉さやかさんが入学して来た……まあ、そんなところでしょうね、きっと。
で、多賀城さんのかわいい悲鳴も聞けたところで――篠塚くんが最初に尋ねた疑問にも答えるね。誉さやかさんの装具を軍事用に転換したのは、パシフィック・サーバントである事はすでに裏が取れてるの。だから、それについては、はっきりと断言出来る。けど、それがいつ頃だったのか……それは、推論に頼るしかないんだけど……」




