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「大正解!」
パチパチパチ、と直子が小さく手を叩いた。
だが、そのセリフとは裏腹に、彼女の瞳は一層の真剣さを帯び、鋭い光を宿していた。
特高が、どれほどあの『あいつ』に痛めつけられたのか、夏彦には、なんとなく分かったような気がした。
日本国防陸軍史上最強とまで言われた戦術生体兵器である夏彦でも勝てなかったのだ。同じ第一級でも、戦術生体兵器の強さには幅がある。特高に所属する第一級戦術生体兵器は、『あいつ』に文字通り手も足も出なかったのだろう。
しかし、問題は、もう一つある。
その『あいつ』が誰なのかと言う事だ。
だが、判断の材料は、目の前にすでに十分過ぎるほどに揃っていると言っていいだろう。
そこから導き出される答えは、一つしかない。
「そして、あの機械化人間兵器こそが、うちの生徒隊長の誉さやか先輩だって言う事なんですね」
「そう、ご名答。彼女、連中の間では『ケルベロス』って呼ばれているみたい」
直子は、苦笑気味に夏彦の出した結論を肯定し、さもうんざりとばかりに首を振った。
無理も無い、と夏彦は思う。
いや、むしろ結論を告げた夏彦の方が、戦術生体兵器として戦中戦後を通じて機械化人間兵器とさんざんやり合ってきただけにその異常さがよく分かった。
Iクラスの機械化人間兵器。
それは、本来実験兵器に過ぎない筈の物だった。
機械化人間兵器の兵器としてのレベルには、戦術生体兵器ほどの曖昧さは無く、かなり厳密に定義する事が出来る。
と言うのも、個体差によって能力の種類やその強弱にある程度の幅とバラツキの出る戦術生体兵器を補完する事が機械化人間兵器の重要な存在意義だからだ。この細かく設けられたランクを利用する事によって、国防軍、国家警察軍等ではバランスの採れた戦力の配分を行う事が出来、ある程度戦力の均一な部隊編成が可能になるのである。
機械化人間兵器のランクは、一番上のクラスから、「S」「A」「B」「C」と四段階あり、埒外として、医療用の「D」クラスがある。だから、戦力としてカウントするのは、最初のS~Cの四段階と言う事になる。
そして、今話の俎上に上がっている誉さやかだが、学内では「S」クラスと言う事になっている。
これは、戦術生体兵器で言うと「第一級」の一番下ぐらいのレベルと言うのが、一般的な理解で、夏彦もそのように理解しているし、実際に戦中戦後を通してこれまでに見た「S」クラスの機械化人間兵器達は、およそこの範疇に当てはまるものだった。
だが、問題は、実際の彼女のランクである「I」クラスが、それらのクラスとは次元の異なる全くのイレギュラーな物だと言う事なのである。
アレクセイが、呻くように呟いた。
「あらゆる面で戦術生体兵器を上回ることを目指して開発された機械化人間兵器か……」
「そう。でも、もっと踏み込んで言うと、『戦術生体兵器を斃すために作られた』と言っていいでしょうね」
「でも……。確か、戦時中にアメリカで開発に成功したけど、維持するのに莫大な費用が掛かるので、実用化は放棄されたって、私は聞きましたけど……」
「うん。さすがによく知ってるね。でも、ウィンターズさん考えてみて。あれって、通常の健康体の人に装具を埋め込んで神経接続手術を行うから、莫大な費用が掛かるんだよね。もし、元からその人が全身に装具を埋め込んでいるような人だったら、どう?」
「おいおい、そりゃぁ、あり得ねぇぜ。でぇいち、手術だ、メンテナンスだ、でべらぼうな金が掛かるぜ。どこのお大尽がそんな物好きなことするんでぇ? おいら、全身マヒの人を戦時中にいくらも見たが、みんな上半身が精一杯だったぜ。それを、おまえさん――」
そこまで言いかけて、アレクセイは目を見開き、「おいおい……まさか――」と夏彦達の顔を見渡した。
「その、隊長さんの名字は、『誉』って言ったか? まさか、あの『誉』かぇ?」




