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「ええと…………?」
「突然でごめんなさい。でも、このタイミングで話しかけるのが、一番話が切り出しやすいかと思って」
で、話のつづきね――と、その人物は、うれしそうに言葉を続けた。
「彼は、国家警察軍国民憲兵隊『赤きルクレール』の元軍曹――国府田アレクセイくん。ちなみに――気付いていると思うけど、彼も戦術生体兵器。通り名は、『極限豪力』。第一級戦術生体兵器」
「元……なんですか?」
そう反芻したエマに入口に立ったその人物は、仄かな微笑とともにこっくりと頷いた。
少し茶色味の掛かった黒髪のポニーテールと上下とも黒のパンツスーツ姿。夏彦達より少し上の年齢かと思われる全体的に彫りの深いエキゾチックな顔立ちの女性だった。
「そう。だから、国府田くんは、どこの組織にも属していない全くの一般人よ。間違いなくね。二年前にちょっとした事件があって彼は、退役したみたいなんだけど……。ここら辺の事国府田くんは、みんなに話していないのかな? 話してないなら――」
どんっ! と彼女の言葉を遮るようにテーブルにフォークを置いて、アレクセイは、つまらなさそうに言った。
「おいらの紹介は、それぐらいで十分だろう? そもそも、人の事よりおめぇさんが、どこの誰兵衛さんで、なんの用事でここに来たのか……そいつを言った方がいいんじゃねぇのかい? どこの誰かも分からねぇ人間の話は、信用していいのか分からないぜ」
なあ? と振り返るアレクセイに皆も
(十分……かしら? 助けてもらったのは、確かだけど……)
(大丈夫ですよ。アレクセイさんは、昨日も今日も私達を助けてくれたんです。私は、アレクセイさんはいい人だと思います)
(夏音さんもほのかさんに賛成だよっ。夏彦くん……)
(うーむ……)
と顔を見合わせつつではあるが一様にこっくりと頷いた。
そんな一同の態度に、「そりゃそうね」と彼女は苦笑とともにぺろりと小さく舌を出した。
「私は、内務省特別高等警察特戦隊『蒼きスペツナズ』所属の本田直子。階級は、警部補。と言っても私は、戦術生体兵器でも機械化人間兵器でもないよ。まあ、言うなればあの子達のオペレーター兼捜査官……国防陸軍で言えば、戦術生体兵器小隊を率いる小隊長にあたるかな。でも、そういう紹介よりも――」
と本田直子と名乗ったその人は、いたずらっぽく微笑みながら夏彦達を見つめて言った。
「昨日、高速道であなた達にコテンパンにやられたのは、私達ですっ!――と言った方がここでは適切かな?」
「じゃあ、昨日の襲撃は……」
「そう、私達。まあ、君や国府田くん、それに君の妹ちゃん達のせいで失敗しちゃったけどね」
「特高は、なぜ『さくら』を?」
「それは……」
うーん、と腕を組んで唸りつつ直子は、テーブルの隅を指差した。
「ここ座っていい? 話長くなりそうだから」
そう言うと、直子はきょろきょろと辺りを見渡して、部屋の隅にあった件のゴミ箱をテーブルの傍に持って来た。
そして、「大丈夫かな……」と呟きつつそっとその上に腰を下ろしたのだった。




